オーラが見える

「僕はね、人の魂が見えるんですよ」


 山本くんは初対面の時にそう言い放った。てっきり人魂や幽霊が見えるのかと思い、どんなものが見えるのかと聞いたら随分と想像と違った。


 彼は気難しい人として多くの人と距離を置かれていたが、私には割と気軽に話しかけてくれた。大学生にもなってぼっち飯で一人孤独に食べていたのが気にかかったのかもしれないと思う。


 基本的にそんな『配慮』は必要無いのだが、彼は私と同じテーブルに座り冒頭の言葉を言ってきた。


「魂が見えるって人魂でも見たのか?」


 私が見えるふりをしているだろうという空気を出しながら、彼にそう言うと静かに首を振った。


「いや、違うんだよ。生きている人の魂が見えるんだ。なんて言うのかな? オーラって言うかさ、怪しい奴は空気で分かるんだよ」


「じゃあ俺は怪しくない人間だってワケだ」


 彼はその言葉に不敵に笑った。


「いや、どうにもアンタにはオーラが濁っているのが見えてな、何かに憑かれてるんじゃないかと思ったんだよ。こんなのは初めて見たよ」


「人を珍獣みたいに言うな?」


 その言葉にも彼は不快感を見せるでもなく、自分のカツ丼を食べながら私に話を始める。


「ハハハ、間違っちゃいないな。アンタ何をやったんだ?」


 そんなことを言うものだから『怪談を集めるのが趣味なんだよ』と言ったところ、軽く山本は驚いた様子を見せた。少し胸がすく思いだ。


「怪談を集めてるのがそんなにおかしいのか?」


 そう言うと彼は、真剣な顔になって言う。


「別にウソ八百をいくら集めようが大丈夫だと思うがな、あんた、いくらか本物を集めちゃいないのか。どうも本物の匂いがするんだよな」


「犬かよ……怪談なんだからウソだって混じってるのは承知だよ」


 私の少々開き直った答えに彼は頷きながら言う。


「じゃあいくつか怪談を披露してもらえないかな?」


「ここは学食だぞ、オカルト話をするようなとこでもないだろ?」


 しかし彼も退かない。


「今の時間を見てみろよ、夕日が沈む頃に学食に来てるやつなんてそこまで多くないだろ? どうせみんな興味無いって」


 失礼な物言いだが、そういうものかとも同時に思う。何が見えていたのかは分からないがコイツにとっての娯楽なのだろう。


 私はいくつかのその時集めていた怪談を語ったのだが、途中で彼がさえぎった……アレはなんの話だったかもう覚えてはいないのだが……


「その話はマジでヤバいから気をつけろ。語っているときにお前のオーラが真っ暗になったぞ」


「そんなことがあるものかねえ……」


 元々信じているわけでもないので、奇妙な相席人に与太話をしていたら突然マジレスが飛んできたようなものだ。


「そうかい、ま、気をつけるとするよ」


「ああ、そうした方がいい。あと○○神社でお祓いを受けるといいぞ」


 彼とはそう言って別れた。神社でお祓いか、なんて思いつつ、馬鹿馬鹿しいと思っては居たのだが、気が付くと神社にいた。


 はて、こんなところに来る用事があっただろうかと思っていると、神主さんが出てきて『おう、山本のところの坊から話は聞いてるよ、上がっていけ』と神主には似合わないフランクさでそう言う。そのまま社殿に上がってなにやら祈祷を受けたのだが、その時に気のせいかと思う程度にフワッと体が軽くなったような気がした。


「ま、こんなところだろうな。アンタ、山本のやつには感謝しておけよ。ウチはこういう飛び込みは受けてないんだからな」


 そう言われ、代金を払うと神社を追い出された。なんだったんだとは思ったが、翌朝の寝覚めが非常に心地よく、アイツの言っていたことも全部ウソではないのだろうと思いつつ、結局今でもこうして怪談を集めている、人間というのはつくづく因果なものだと思うのだが、彼は今でも元気にしているのだろうか? 時折ふと突然奇妙な言葉をかけてきた友人のようなやつの安否が気になってしまう。

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