第4話 存在しない記憶

 開かれた扉を潜ると、もう1つ部屋があって。


 そこに、魔物が、モンスターが居たんだ。


 それは金髪の女性に見えたんだけど。


 腕が6本あって。

 顔が昆虫みたいだった。


 身体の要所要所に甲殻があり……


 人と節足動物の合成生物……


 魔物は吠えた。


 キシャアアアア!


 そして俺たちを視認するなり、襲い掛かって来た。


 俺は前に出て、両手斧を構え。

 アキラは服に仕込んでいるダガーを引き抜き、投擲の構えを取る。




「さて、お宝は一体何かな?」


 最後の番人のような、その合成魔獣を即殺し。

 俺たちは最後の扉の前に立ち。


 アキラがその扉の、罠の有無を確認していた。


 彼女の仕事は確実だから、俺は全く不安には思っていなかったのだけど。


 扉に身を寄せて、色々調査している彼女を見ていると


 ……なんだか。

 腹が立って来た。




 あの女……

 俺の研究にケチをつけるだけでは飽き足らず


「お金にもならないし、時間の無駄だからやめてくれない? あなたの才能はもっと有用に使うべきよ」


 なんてふざけたことを言ってきやがった。

 ろくに自分では魔法も使えない低能のくせに。


 ああ、顔と身体が良いからって理由で、あんな女選ぶんじゃ無かった。

 女には、智の世界が分からない。


 それがあのとき、はっきりと分かったよ。

 どうせ、あの女も……


 保管庫に入れてある俺の大切な資料を……


 燃やすんだろ!?


 殺してやる!!


 俺は両手斧を握りしめ、アキラの背後に近づいた。


 アキラの奴は、扉に集中していて、気づいてない。


 ……死ね!




「……シン?」


 そのとき。

 何を思ったのか急に、彼女が俺を振り返り、


 俺が斧を振り上げて後ろに立っていたことに気づき、怯えた顔をしたんだ。


 その瞬間、俺の意識が蘇って来た。

 振り下ろそうとしていた斧の手が止まる。


 ……俺は一体何をしようとしたんだ?

 俺が彼女を……アキラを殺そうとするなんて!




 そう思った瞬間。

 俺の頭の中に、怒涛の勢いで誰かの記憶が流れ込んで来た。


 本当は進みたくなかったのに、適性が最高で。

 結果まで出せてしまった魔法学。


 全く興味が無いわけじゃないけど、1番したい研究はこれじゃない。


 なので、国に求められ、羨望の眼差しと多額の報酬を受けることが出来る生物混合魔法の研究とは別に。

 本当にやりたかった研究の……蟲の研究をずっとやって来たんだ。

 30年以上。


 特に興味があったのはヒクイムシ。

 草食性の蟲なのに、繁殖するとき交尾をせずにオスを喰い、腹の中で卵子を受精させる。

 何故そうなのかが分からなくて。


 ずっと調べてたんだ。


 誰に求められてもいないけど。


 だけど、あの女は俺に


「いい大人なのに、蟲を捕まえて眺めて遊ぶなんて恥ずかしいと思わないの? 幼児じゃあるまいし」


「大体気持ち悪いのよ! ウチに持ち込まないで!」


 ……そんなことを言って来た。

 だけど俺は仕事の研究は普通に結果を出してるし、文句を言われる筋合いはないから無視を決め込んだ。


 だが……


「いい加減お金にならないくだらないことはやめるべきだから、あなたの書いてたくだらないノートを全部燃やしてあげたわ!」


 あの女が笑顔でそんなことをほざいたとき。

 ……その瞬間。

 俺の中の理性がふっつりと切れたんだ。




 ……これは……

 俺も、さすがに気づいた。


 ひょっとして……魔術師サレオの記憶か……?

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