第7話尻穴令嬢は×××××××に気づく
魔力の少ない使用人用の「アナールウォッシュ1ウィーク」と、「コノスキニシリアラーエ」改め、「遊んで魔力操作が身につく!飛び出る動物園」は大好評だ。アナールウォッシュ1ウィークは主に使用人の数が多い高位貴族から、飛び出る動物園は使用人のいない貧困貴族から人気だ。
飛び出る動物園は改良もなくそのまま市井に出したら飛ぶように売れた。特許はアレクセイの魔法陣を商品化まで落とし込んだアナール商会が持っているが、元の魔法陣の特許はアレクセイに取らせたので使用料がはいる。特許料以外に、原案料として利益の一部はアレクセイに入るようになった。
また、企画書を出した夜にジェイソンは早馬を出し、アレクセイの生み出した芸術的な魔法陣を片っ端から特許出願するようアスタリスク侯爵に助言したらしい。特許出願のための書類だけで1週間潰れたと、感謝の手紙と菓子折りが届いた。
そんな中、エリザベータはうんちのキレが悪いような、すっきりしない気持ちを抱えていた。
「最近ずっと浮かない顔しているわね。何かあったのかしら?」
昼食の際、ユイに連れ出されて聞かれる。食堂があるので、商会で働く人たちはそこでランチをすることが多い。お昼休みのベンチにいるのは、お弁当派の人たちだけだ。ユイに差し出されたサンドイッチをありがたく受け取って、この腹に溜まったものをポツリポツリと捻り出す。
「わたくしも、自分でなにが引っかかっているのかわからないのですけれども…。アレクセイ様の魔法陣を、綺麗だと思いましたわ。飛び出る動物園は、良い商品ですわ。人々の役に立つ、人々が喜ぶ、そして利益が出る。こんなに良い商品ないでしょうと思いますのに、どうしてかしら、わたくし、気分が晴れませんの」
「エリーちゃんだしズバッと聞くけど、嫉妬?」
「うーん…」
抱える気持ちに、妬みがあるかと言われればない。寧ろあるとするならば、
「嫉妬というよりは、『申し訳ない』と思ってしまうのですわ。正体のわからない罪悪感を抱えておりますの…」
「罪悪感…アレクセイくんが隠していた才能を引き摺り出してしまったことかしら」
「そう、かもしれませんわね。アレクセイ様はお気持ちが繊細でいらっしゃいますもの。表舞台に立たせてしまった罪悪感なのかもしれませんわ。…でも、やはりスッキリしないのですわ」
「アレクセイくんが嫌とかではない?」
「有り得ませんわ!」
それだけはキッパリと言い切る。
「例え尻穴がヒリついても、わたくしたちの友情がヒリつくことはございませんわ!」
「なら安心したよ。仲違いだったらあたしたちも悲しいからね」
食べたら戻ろうか。と言われて、心配をかけてしまったと反省する。アレクセイへの態度でおかしいところがあっただろうか。ここは職場なのだし気を引き締めていかねばなるまい。
サンドイッチを食べ終わって戻る。開発部のドアを開けた瞬間パァーン!と破裂音がして、ヒラヒラと紙吹雪が視界に舞う。
エリーちゃんお誕生日おめでとう!
ございます。とアレクセイの声が最後聞こえて、やっと状況を把握する。
「2日遅れになっちゃったけど、開発部でもお祝いしたくて!今日は皆んな時間給取っちゃった!」
シリカがニコニコと笑いながら事情を説明してくれる。後ろを見ればユイがニコリと不敵な笑みを浮かべた。なるほど先程の話はエリザベータを連れ出すための口実か。
「皆様、ありがとうございます!わたくし素敵な7歳の幕開けで胸が躍り狂っておりますわ!」
「さぁさぁ、お菓子も用意したし、パーティーだパーティー!」
「エリーちゃんのおうちのパーティーとは比べ物にならないけどね。あたしたちからの気持ち」
「嬉しいですわ!わたくし皆様でワイワイするパーティーしてみたかったんですの!」
と、その前に。とシリカがアレクセイに声をかけた。アレクセイはおずおずと包まれた箱を取り出す。
「これ、僕たち4人からのお誕生日プレゼントです」
「まぁ!ありがとうございます!開けてみてもよろしくて?」
「どうぞ」
包み紙をそっと剥がすと出てきたのは桐箱。その中には
「口紅…いえ、リップクリームですの…?」
可愛らしい丸い陶器の入れ物と、紅筆が入っていた。7歳とはいえ貴族なので化粧をすることはある。しかし通常貴族は、贔屓にしている化粧屋にオーダーメイドで色を作ってもらうため、リップクリームだと判断した。
「ご名答!あたしが企画書通した商品でね。持っている人の魔力に応じて色の変わる保湿クリーム。一般に出回っているのは廉価版で出る色もある程度決まってるけど、これは貴族用の高級品…を更に魔改造したやつよ」
「魔改造!?」
「魔力を通しながら蓋を開けて見て」
可愛らしい陶器の蓋に魔力を通すと、散りばめられている宝石たちに光が宿る。
「きれい…」
「ここで驚いてたらもたないぜ!ほら開けてみろよ」
デンに再度促されて、蓋を開けると、ブワっと目の前に大輪の薔薇が咲き誇った。魔力で作られたそれは、無色透明だが、光が反射して形が作られている。まるでダイヤモンドで描いたようだ。
「すごい…!」
「ぬってごらん」
促されるまま紅筆をとると、シリカが目の前に手鏡を差し出してくれる。紅筆にリップクリームをつけるたびに、キラリ、キラリと魔力が飛び交う。
「わぁ…!」
なんてきれいなのだろう。まるで見えない妖精が踊っている波紋だけが、捉えられているような。これを塗ったらどうなるのだろう。ドキドキしながら手鏡を覗き込む。
「……っ!すごい!お姫様みたい…っ!」
紅筆の動きに沿って魔力の煌めきがまつ毛にまでかかった。唇は塗ったところから、唐紅に染まっていく。キラキラと乱反射する魔力の粒が、まるでダイヤモンドを塗ったかのように虹色に輝いている。
「きれいだ…」
「本当にきれいですわ!なんて素敵な贈り物なんでしょう!感謝で胸がいっぱいですわ!」
この瞬間、ずっと腹に溜まっていたうんちが、元気に飛び出してきたような感覚に襲われた。そうか、罪悪感の正体はこれだったのか!
皆様の目を交互に何度も見て喜んだら、デンにわしゃわしゃと髪を撫でられた。
「ほーら、1番の功労者さん。惚けてないでなんか言ってあげなさい」
「え、あ、えっと」
ユイに押し出されたアレクセイが真っ赤な顔でしどろもどろとする。その様子が堪らなくて、両手を手に取った。
「この素敵な魔力の動きは、アレクセイ様の魔法陣でございましょう!なんて美しくて、見ているだけで心が慰められる光景なんでしょう!アレクセイ様は素敵ですわ!」
「す、素敵!?」
「ちがうちがう、いや確かにそうなんだけども!今は褒める側が逆!アレクセイくんしっかりしろ!」
デンの言葉に悟る。なるほど、アレクセイはエリザベータがこのお姫様のようなリップクリームでめかし込んだ姿を、褒めてくれようとしていたのか。ならばと、手を握ったままにこにこと待つことにする。
「そ、その、エリザベータ様のお色は、エリザベータ様みたいにかわいらしくて、でも、虹色の遊色が掴みどころのないあなた様を表しているようで、とても魅力的だと思います…」
真っ赤になりながらも、目を見て言ってくれるアレクセイはとても誠実で可愛い。
「わたくしをお姫様にしてくれてありがとう!アレクセイ様」
「うん!」
「それとわたくし、アレクセイ様に謝らなければなりません」
「えっ?」
握っていた手をそっと離し、胸の前でぎゅっと拳を作る。この綺麗なリップクリームを見て、己の過ちにやっと気付いたのだ。
「アレクセイ様の魔法陣は、とても綺麗で、美しくて、…ただそこにあるだけで価値のあるものなのに、わたくしはそれを『便利な道具』にしてしまった。わたくしずっとそれに罪悪感を抱いていたのですわ。大変失礼な、侮辱と言っても良い行為を働いてしまいました。申し訳ございませんわ」
スッと頭を下げると、アレクセイが慌てふためく。
「そんな!僕はこの魔法が、弟妹の面倒見る以外で役に立つことがあるとしれて嬉しかったです!申し訳ないなんて言葉、言わないで…!」
「ですが本来なら、アレクセイ様の芸術性は、このリップクリームのように、あるだけで心が慰められるようなものですわ。それをわたくしは…!なんたる愚行!尻穴があったら入りたいですわ!」
「尻穴に入っちゃダメよ」
冷静なユイの言葉もエリザベータには届かない。
「そう!例えるなら太くて長くて立派なうんちのような!誰かに見せて自慢したくなるような!そんな魔法陣でしたのに!わたくしはそれを!肥料にするような真似を!」
「うんちに例える方が侮辱では…」
「ぼ、僕も!力んで休んでを繰り返して捻り出したうんちが、レンコンみたいな形だった時!誰かに見せたくなったのでわかります!僕の魔法陣をそんなに価値があるものとしてくれるなんて…!光栄です!」
「嘘でしょアレクセイくん共感するの!?」
「言いたいことはわかるがそうじゃねぇんだ…」
「共感力限界突破してるね」
ユイ、デン、シリカの大人たちを置いてきぼりにして、エリザベータとアレクセイは再び手を取り合った。尻穴に悩みを抱えるもの同士だから分かり合えるのだ。
もじもじと、アレクセイを見る。この提案、アレクセイは受け入れてくれるだろうか?
「わたくしに、挽回のチャンスをくださらない?あなたの
「僕の
*****
進捗報告
「ここはうんちを見せに行かないわたくしどもの冷静さを褒め称えるところでは?」
「それはえらいと思う」
*****
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