第7話 ……宮廷作法って、私に必要かしら?

 太府に戻り、父と冬嵐とのお茶も終わって、ほこほことした笑顔で自身の屋敷へ帰る冬嵐を生返事で送り出し、私は自室へと戻ることになった。

 部屋に入って、連珠は寝台を整え始め、私は用意されている夜着へと着替えをしていく。


「今日はとても疲れたわ」

「……お嬢様が、旦那様の言いつけを守らず、屋敷から抜け出すからですよ!」

「うん、そうだね。でも、やっぱり、あの行列を見に行ってよかったって思っているわ」

「そんなに殿下は美しい人だったのですか?」

「えぇ、そうなの。あんなに美男子なんて見たことがないわ!」


 思わずうっとりしていると、「お嬢様の女の子ですね」と連珠がからかってくる。別に女の子だから、煌蔣に惹かれたわけではない。誰が見ても、煌蔣の整った美しさには、目が惹かれるに違いない。


「連珠も煌蔣様を見たら、きっと、『あぁ、美しい』って思うわよ。連珠にもいないの? そういう美しいと思うような人」

「いませんよ……、私はお嬢様のお世話でとても忙しいですから」


 布団を整えながら、大きなため息が聞こえてきたが、嫌がっているわけではないことを知っているので、「いつもごめんね」と声をかけた。


「わかっているなら、もう少し、自重してください。旦那様にも注意されたのですから」

「……わかったわ。それにしても、天帝は、一人の人物に、二物も三物も与えたのね。私なんて見て。がさつだし……」

「がさつなのは、宮廷作法を学べば、治りますから」

「……宮廷作法って、私に必要かしら?」

「わかりませんよ? 旦那様と冬嵐様は、それぞれにお考えがあるようですけど、皇子様方の目に留まり、お嬢様が皇宮へ嫁がれることもないとは言い切れませんから」


「そんなことにはならないわ」と私は笑う。寝台を整えてくれていた連珠が、着替えを手伝ってくれる。着替え終わった私は、寝台へのそのそと入った。


 もう少し、煌蔣のことを話していたかったが、連珠は私に反省を促す意味で、私に冷たいので、煌蔣のことを話したくてうずうずしていても聞いてくれないだろう。

 そういう日は、早々に寝台で眠るしかない。そわそわした気持ちもあったが、目を閉じると、思っていたより疲れていたらしく、すぐに眠りについた。

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