お仕事皇太子妃
第8話 貧乏太傅の娘
「お嬢様っ! いつまで寝ていらっしゃるのですか?」
「……遅くまで本を読んでいたから」
大きな欠伸をし、伸びをする。連珠によってすでに朝の準備は整えられており、手近にあった桶に手を入れる。冷たい水で頭も冴え、顔を拭いてスッキリしたので用意された襦裙に着替えた。
「今日から出仕されるのですよね?」
「……出仕って、連珠。違うわよ? ただの日雇い妃。ちょうど年頃の貧乏太傅の娘に白羽の矢が立っただけよ」
「それでも、今日からひと月の間は、皇太子妃ですから」
誇らしげに言う連珠に悪いが、私は全く嬉しくない。皇宮で過ごすことになるので、宮廷作法の上に皇族作法が上乗せされ、息苦しい生活を余儀なくされることは想像できる。
「……辞めて。私を皇太子妃だなんて。なりたくてなるわけでもないし、私のような小娘が、皇太子の尻を叩かないといけないって、どんな国よ?」
大きなため息をつくと、連珠がお茶を淹れてくれる。手を伸ばしたところで、「お嬢様、言葉には気を付けてください」と連珠に注意された。
今回の皇宮入りに連珠はついてこれない。単身、皇宮へ向かい、皇太子妃として、皇太子と生活をすることになっている。
父は、あれほど、皇族と関りを持ってほしくないと言っていたにも関わらず、今回のお仕事で、父の言葉を疑ったものだ。
辺境で育った私は貴賤関係なく、自由に育った。都に来て何年も経つが、今も変わらない。そんな私に務まる日雇い仕事ではないのだが、年頃とお金に困っているという意味で、父が私に懇願してきた。
「言葉には気を付けるわ。それより、お父様は私をいくらで宰相に売ったのかしら!」
「聞いたところによると、金壱拾だとか」
「娘の価値なんて、そんなものなのかしらね? もう少し、値を釣り上げてくれてもいいと思うのだけど」
「破格の値段だと思いますよ? お嬢様は……」
「もういいわ。連珠が言いたいことは、わかっているつもりよ。それより、これを冬嵐に渡してくれる?」
卓の上に置いてあった筆記用具を見て連珠は驚いている。冬嵐は今日からこの国の最高学府への入学が決まっており、その祝いの品であった。
貧乏であっても、幼馴染へのお祝いはしたいと、1年前からコツコツと内職をして貯めたお金で買ったのだ。冬嵐の家はうちとは違い裕福であるから、こんな贈り物は必要ないだろうが、私からのせめてもの祝いの気持ちであった。
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