第6話 さすがに凹みました
「煌蔣様って、とても美しい人ですね」
「あぁ、そうだな。あれで文武両道で清廉潔白だから、皆からは慕われる」
「あの、叔父上」
私たちのやり取りが収まるのを待っていた冬嵐が声をかける「どうした? 冬嵐」と父からの返事に連珠と顔を合わせる冬嵐が何度か頷いた。
「その、桜妃のことは」
「もうよい。叱ったところで、好奇心には勝てぬ。覚えておいてほしいことがあるとすれば、大きすぎる好奇心はいつか身を亡ぼすということだ」
身内ばかりの東屋で「まったく」と悪態をつく父に、冬嵐はほっとしたらしい。やっと連珠も肩の荷が下りた、そんな表情をしていた。
お茶の用意ができたと、侍女が持ってきてくれたので、連珠がお茶の用意をしていく。私たちは、整うのを待ってお茶を啜った。
「それで?」
「ふぉうでふぃた。ふぉうしょうふぁまって……」
「……桜妃、食べてから話しなよ」
口に頬張ったお菓子を飲み込み、机に手をついて、前のめりに父へ迫った。父は、驚きもしなかったが、私の大きな動作に冬嵐は引いている。
「すごい美男子で……、私があまりにも平凡過ぎて、さすがに凹みました」
「桜妃は、煌蔣様の顔を見たのかい?」
驚く冬嵐に私は素直に頷き、ぼんやりと見つめてしまったことを言った。父は何も言わなかったが、冬嵐と連珠は、「桜妃!」「お嬢様!」と声を張り上げた。皇族の顔をまじまじと見るのは、失礼なことだと知っている二人は、私のしたことを咎めようとしたが、父が済んだことを言っても仕方がないと苦笑いをした。
「桜妃も桜妃だが、煌蔣様も煌蔣様だからなぁ……。お咎めはないだろう。『芳桜妃』は皇宮では有名だ」
「有名ですか?」
「……褒められた方で、有名ではないから気にするな」
父に言われた言葉を咀嚼しながら考えると、なんだか腹立たしい。街中でも、『芳桜妃』はあまりいい噂話は聞かなかったからだ。
「まぁ、何にしろ、煌蔣様とこれ以上、関わりあうこともないだろう。桜妃」
「はい、お父様」
「できる限りで構わない。自分がおかれれている立場をよくよく考えて行動するようにしなさい。私が生きているうちは、助けられることもあるだろうが、皇族との関わりを持ってしまうと、私でも助けることは難しい。慎重に生きるのだ。わかったか?」
「肝に銘じておきます」
「冬嵐も、悪いが桜妃のことをよろしく頼む」
「はい、叔父上。精一杯、桜妃のことを守ります」
父は頷き、使命をもらったと誇らしげな冬嵐をよそに、私は煌蔣のことを考えていた。記憶の奥底に眠っていた三々との思い出に、何故、彼が結びついたのか。父たちの話は大いに盛り上がているようだが、私は耳には入ってこず、から返事だけを繰り返した。
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