第2話 異世界召喚された理由と魔王のオッサンはお義父様
「――――お前が十六人目、最後の一人か。よもやわしの愛娘に選ばれるとはな……せいぜい光栄に思え人間」
まじで意味が分からなかった。なんなら意味不明おじさんが頭の中でブレイクダンスを踊っていた。
何故なら前日まで俺は自分の家にいたはずで、積んでたゲームを消費した後、日課の筋トレをして寝たはずだったのだ。
それが気付いたら見たこともない城の中にいて、同じく見たこともない美少女に訳も分からないまま魔王を自称するやたら威厳のある白髪のオッサンの前に立たされていたのだ。意味が分かる奴がいたら名乗り出てほしいくらいだ。
「これより一月後、魔界に呼ばれたお前達人間には最後の一人になるまで殺し合ってもらう。だが案ずるな、たとえ死んでも元の世界に帰るだけ。本当に死ぬわけではない。…………言葉は通じてるはずだな?」
一方的に話しかけてくる羊みたいな角を生やしたオッサンは、俺の返事を待つでもなく、やたらダンディーな低い声で続けてくる。
「これは二千年周期で行われる代理戦争。次期魔王の資格を持つ十六人の魔族と、その魔族に召喚された人間が争う魔王の座を賭けた継承戦だ。……覚悟はいいか?」
「ちょ、ちょっと待てよオッサン! 一から十までまったく意味が分かんねえ! ここはどこだよ⁉︎ なんで俺がそんなことしなきゃなんねーんだよ⁉︎ 俺になんのメリットがあんだ……いでででで! タンマ! タンマだ馬鹿野郎‼︎」
そこでようやく我に返った俺がオッサンに喰いかかると、その言葉も終わらぬうちに周りにいた奴らが俺を取り押さえてきた。
「口を慎め人間! 魔王様に向かってオッサンとはなんだ! この場で八つ裂きにしてやろうか⁉︎」
「確かに魔王様はオッサ……お年を召しているが聞き捨てならぬ! くびり殺してくれよう!」
明らかに口を滑らしかけた奴が俺の腕を捻り上げた。
しかしそれも束の間、オッサンはそいつらに「よい、離してやれ」と声をかけると、そいつら「はっ!」と声を上げ素直に俺を解放した。
「口は悪いがお前は大事な闘技者だ。答えてやろう」
玉座の間のような部屋の天井から馬鹿デカい水晶玉が音も無く下りてきた。
その水晶玉にはどういう原理か分からないが、まるで衛生やドローンが撮影したような、遥か上空から撮られた広大な大地が映し出されている。ただしその大地はどこもかしこも灰色や黒い地面に覆われ、所々映る町は見たこともないトンガリ屋根の建物ばかりだ。
「ここは我ら魔族が暮らす魔界。お前がいた世界とは別の次元に存在する暗黒の世界だ。そしてお前を召喚したのはセラ。そこにいるわしの一人娘だ。ここまでは理解できたか?」
「…………お、おう」
信じられないが返事をしてみた。なんかのドッキリかもと思って周りを見渡すが、ドッキリ大成功の看板なんてありゃしねえ。
「なにもお前にとって悪い話ではない。召喚者の魔力特性の一部は、召喚された人間に付与される。そして同じ人間を殺す度に、相手の宿した魔力特性を奪えるのだ。それは闘いに敗れ、元の世界に戻ろうと無くなることはない。どうだ? 夢のような話だろう?」
ドヤ顔されたがサッパリだ。
「もう少し分かりやすく説明してくれ。なんだよ魔力特性って。スキルとか魔法みてーなもんか?」
「まあ砕けて言えば同じようなモノだ。ちなみに教えてやるが、二千年前、わしが召喚した人間はあらゆる奇跡を身に宿し元の世界に帰った。奴の名は今でもお前達の世界で語り継がれているようだな」
とんでもビックリな話に繋がりやがった。俺は信じちゃいねーが、その継承戦とやらで優勝すれば神様にでもなれるらしい。
――だが俺は、そんなこと欠片も興味がなかった。
「んなこたどーでもいいんだよ。俺はニート生活を満喫してたんだ! まだハンマーハンマーの完結見届けてねーしドロクエだって全部プレイしてねえ! 早くうちに帰せよ!」
「まじかよこいつ……」
オッサンを始め周りの奴らも驚いてやがる。ざまあみろだ。
(うし、これで帰れるかもしれねえ。てかこいつらに殺されたら元の世界に帰れるなら好き放題言ってやる。痛えのは死ぬほど嫌だけど漫画とゲームのためだ!)
冷静になればこっちはその下らねえ闘いを頼まれる側。だったら立場的には俺に分があるはず。そう思い至った俺は、俄然強気になっていた。
だがそんな心理的アドバンテージは、次のオッサンの言葉でどうでも良くなってしまった。
「お前達が強くなるには召喚者の魔力を付与されることが必須。それは身体的接触、つまり…………ごほんっ……をすることでお前の身に魔力が宿るということだ。……まあお前がそこまで嫌なら別に止めはせん。セラはわしの大事な娘なのだからな」
「お任せくださいお義父様。此度の継承戦、この九条流斗が必ずや優勝を果たしてみせましょう」
「こ、此奴……」
こうして怒りや呆れを浮かべる魔族達に囲まれながら、俺は魔王継承戦に参加することになったのだった――――。
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