第8話 勇者のお城を探索
勇者の城。廊下でお茶会をする二人。
「じゃあ、ヴァレンよりも
強いドラゴンは他にもいたの?」
ヴァレンは頬に手を当て
考え込むように天井を見上げた。
彼女の灰色の髪がふわりと揺れる。
「うーん...そう言われると困るなあ」
ヴァレンは小さく笑ったが
その笑顔には自嘲的なものがあった。
「他のドラゴンと私を比べたら
どうなんだろうね?」
窓辺に座り直し
足をぶらぶらさせながら続ける。
「でも、強さってなんだろうね
私は、自分の力に自信があるけど...」
「勇者には心の強さで
敵わなかった気がするけど」
「でもね…私より強いドラゴンは
いてないと思うよ」
ヴァレンは遠くを見つめ
何かを思い出すように目を細める
彼女の声にはどこか寂しげな
響きが混じっていた。
「今のヴァレンを見てたら
そうは思えないよな」
タカツグは笑いながら言った。
ヴァレンはタカツグの言葉に
クスリと笑い一瞬だけ
瞳に寂しげな色が浮かばせる。
「そう思う?」
「まあ...確かに今はただの
子供みたいだもんね」
ヴァレンはテーブルに置いてあった
クッキーをつまみ、口に放り込んだ。
紅茶からは香ばしい湯気が出ている。
「でもね...私の中にはまだあの頃の力が
眠ってるんだよ。封印されてるけど」
「いつかきっと取り戻せるって信じてる」
ヴァレンは窓の外を見つめ
遠い記憶に思いを馳せていた。
「だからね…。
私のこと甘く見ないでよね
今でも、やっぱり強いんだから」
ヴァレンはタカツグを見つめて
寂しげな表情で言った。
「でも、今のヴァレンはショボい火力の
火しか吹けないじゃん」
ヴァレンはふてくされたように
頬を膨らませた。
彼女の灰色の髪がふわりと揺れ
ジト目でタカツグを睨む。
「うるさいなぁ...そんなこと言うなよ!」
ヴァレンはゆっくり立ち上がり
お茶会のテーブルに置いてあった
小さなティーカップを持ち上げ
紅茶を飲み干して
ぷっと小さく息を吹きかけた。
その瞬間、ヴァレンの中から
ピンク色の炎がぼんやりと
浮かび上がった。
「ほら見ろ!これでも立派な火だぞ!」
「まあ...ちょっと火の火力が足りないけどさ」
ヴァレンは得意げに言ったが
すぐに顔をしかめ
彼女は困ったように笑いながら
再び窓辺に腰を下ろした。
「本当に、私の力さえ
取り戻すことさえできれば..」
その声にはかすかな寂しさが滲んでいた。
ヴァレンは窓の外に広がる
空を見上げて目を細めた。
「他にも城の中を見回ろうぜ?」
タカツグの提案を聞きいれ
ヴァレンは窓辺からゆっくりと
立ち上がり少しだけ興味を示した。
彼女の灰色の髪がふわりと揺れ
目には好奇心が宿る。
「うん...城の中って
まだまだ知らない場所が多いんだよね」
ヴァレンはお茶会で出した
テーブル等を片付け始める。
「それに、何か面白いものも
見つけられるかも!」
ヴァレンは足元でつまずきそうになり
小さく舌打ちをして乱れた服を整える。
「ちっ。本当に、この体には
まだ慣れないなぁ...」
ポケットにお菓子を入れて片付けが終わった。
「さあ、行こう!」
「せっかくだし、もっと面白い
場所を探しに行こ!」
ヴァレンはタカツグに目を向けて微笑む。
二人は城の牢獄についた。
牢獄の檻の中には囚人がいて
ヴァレンを見るや鼻で笑った。
ヴァレンは牢獄の冷たい石畳に
足を踏み入れると彼女の灰色の髪が
薄暗い光の中でぼんやりと輝き
その独特な雰囲気をだし、眉をひそめた。
「ここって...ちょっと気味悪いね」
そう呟きながらも、ヴァレンは
好奇心旺盛な目で周囲を見回した。
囚人のひとりが鼻で笑い口を開く。
「ふん!おいおい、こんな所に
ガキが何しに来たんだ?」
ヴァレンは頬を膨らませ
不満げに囚人を睨みつけた。
「誰がガキだって言うんだよ!」
「私はあんたよりも強いし
長く生きてるんだからな!」
すると、ヴァレンの言葉を聞いた
囚人はさらに大きな声で笑い出した。
「強くてどうする?」
「こんな場所じゃ強くても
なんの役にも立たないさ」
ヴァレンの瞳が鋭くなり
小さく息を吸い込み拳を握り締める。
「ふーん...だったら、あんたに
見せてあげるわ。私の力を!」
ヴァレンは囚人の挑発に苛立ちを
隠せないまま拳を震わせた。
「おいおいヴァレン暴れるなよ〜」
タカツグは興奮するヴァレンを
なだめるが、彼女の瞳には
怒りが宿ったままだった。
「ふん!...暴れるなって言われたから
仕方なく見逃してあげる
ありがたく思ってよね」
ヴァレンは囚人に怒りの表情で言葉をぶつける
小さな体からは予想外の力強さが感じられた。
次の瞬間、足元の石畳につまずき
ヴァレンはバランスを崩してしまった。
囚人たちは再び笑い声を上げる
ヴァレンは耳に手をあて
その音を無視しようとする。
「う...うるさい!笑うな!」
「こんなところで転ぶなんて…
全然、恥ずかしくなんかない!」
膝をついたままヴァレンは
頬を赤らめ照れ隠しに怒鳴る。
彼女は立ち上がって
不機嫌な表情を浮かべた。
タカツグは不機嫌なヴァレンの
手を引っ張り牢獄を出て
城の大広間にやって来た。
「なぁヴァレン。城の中ってさぁ
やっぱり豪華なんだな」
タカツグはそう言いながら天井に吊されている
豪華なシャンデリアや装飾品などを指さし
周りをキョロキョロと見渡した。
ヴァレンは大広間の
華麗な装飾に目を丸くした。
彼女の声には感嘆と興味が混じっていた。
「ふわぁ...こんなに光り輝くもの
見たことないかも!」
「でも、ちょっと派手すぎじゃない?」
ヴァレンはシャンデリアを
見上げながら首を少し傾げた。
その仕草にはどこか子供らしい
無邪気さが垣間見える。
「それにしてもタカツグ。
どうしてお城ってこんなにも豪華なんだろ?
私の洞窟はもっとシンプルだったけど」
「そら、洞窟が豪華だったらあやしいだろ」
ヴァレンは、ふと何かを
思いついたように目を輝かせた。
「ねえ、タカツグ!」
「あのシャンデリア、ちょっとだけ
触ってみてもいいかな?」
ヴァレンの声には抑えきれない
好奇心が滲んでいた。
「…いいけど、壊すなよ?」
「壊れても俺は弁償できないからな」
ヴァレンは、目を大きく見開きながら
シャンデリアに近づいた。
「うん...壊さないよ」
ヴァレンは小さな声で約束した。
「でも、もし壊しちゃったら...」
「まぁ、どうせすぐに修復できるし
気にしないで!」
ヴァレンはそう言って小さくジャンプし
シャンデリアの一部をつかんで揺らした。
彼女の白い指先が冷たく
輝くガラスの表面に触れ
彼女の動きに合わせて
シャンデリアのガラスがきらめいた。
「見て!これ、すごいよ!」
ヴァレンは興奮気味に叫んだ瞬間
手から滑り落ちた小さな飾りが
床へと転がった。
ヴァレンの顔が一瞬で青ざめ
彼女は慌ててその飾りを拾い上げた。
「あ...あれ?取れたのちょっとだけだよ!
誰も気づかないから大丈夫!」
ヴァレンの目は恐怖と不安で揺れ動いていたが
すぐに無邪気な笑みに変わった。
「ねえタカツグ、これ記念に
持っていってもいいかな?」
「……まぁいいんじゃない?
勇者の城のだし、弁償したくないし」
タカツグは周囲を確認しながら言った。
ヴァレンは肩をすくめシャンデリアから落ちた
飾りの一部をポケットにそっと滑り込ませた。
「ふんふん。まあ、勇者の城って
そういうものなのかな」
ヴァレンは呟きながら
周囲を見渡し手近な椅子に飛び乗る。
「でもさ、なんでタカツグは
こんな場所に連れてきたの?
何か面白いことあるのかな?」
ヴァレンは好奇心で
瞳がキラキラと輝いていた。
「ぐぅ〜……」
突然、ヴァレンの腹から小さな音が鳴る。
「あっ...さっきのお菓子がまだあるはず...」
ヴァレンは顔を赤らめてポケットを探り
ポケットからは半分つぶれた
クッキーが姿を現した。
「タカツグ、お腹すいたよお…」
ヴァレンは半分つぶれたクッキーを
頬張りながら上目遣いで
タカツグに訴えかけた。
「ところで、ヴァレンはドラゴン時代に
なに食べてたの?」
「人間の食べ物とか
食べてなかったでしょ?」
と、ヴァレンが城の大広間から
次々と小物類を盗んでいるとこを
眺めながらタカツグは質問した。
ヴァレンは動きを止めず
近くにある美しい小瓶を手に取っていた。
彼女の指先がその表面をなぞる。
「んー?私?昔は何食べてたって?」
口元には小さな笑みを浮かべ
「えっとね...山に出没する
モンスターや獣とか...」
「岩の中から滲み出る
ミネラルも好きだったかな」
ヴァレンの目が少し遠くを
見つめるように曇った。
「人間の食べ物はどうなんだろう?」
「タカツグ!私も人間の食べ物が
もっと気になる...特に甘いものとか!」
ヴァレンはその場でくるりと回転し
目をキラキラとさせて
タカツグをまっすぐに見つめた。
「あ、でも、この小瓶は食べちゃダメだよね」
ヴァレンは手の中の小瓶を
見下ろし、そっと元に戻す。
タカツグは小瓶を指さして
「その小瓶は食べれるぞ」
と、ヴァレンに嘘をついた。
ヴァレンの目が大きく見開かれ
好奇心と驚きが混じった表情で答える。
「えっ...本当!?」
「でも、これって貴重そうだよね
本当に食べれるのかな?どうしよう」
ヴァレンは手に小瓶を握りしめ
迷いながらも顔を近づけて小瓶の匂いを嗅ぐ。
「うーん、特に匂いはしないけど...」
「まあいいや!」
突然、決意したように
ヴァレンは小さな口を開けて
小瓶にかぶりついた。
しかし、唇が触れ噛んだ瞬間
驚きで飛び退いた。
「あっいた!冷たい!これ硬いよタカツグ!
小瓶、全然食べられないよ!」
ヴァレンは小瓶を放り投げそうに
なったが、なんとか手に留めた。
「ふっ。まんまと騙された」
タカツグは笑って呟いた。
「...タカツグの言ったこと信じちゃったよ
ちょっと恥ずかしい」
顔を赤らめてヴァレンはそっぽを向いた。
その表情には怒りよりも
羞恥心が浮かんでいた。
ヴァレンは、タカツグの笑い声に
顔をしかめたがすぐに表情を
元気よく笑顔に変える。
「えへん!まあ、そんなこともあるよ
でも、次から気をつけようっと」
ヴァレンは小瓶を元の場所に戻した。
「そうだ、ヴァレン?
城の中にあった厨房にいかないか?」
「俺もお腹がすいたし、なにか
食べものを恵んでもらおうぜ!」
タカツグは周囲を見渡し笑って
ヴァレンに提案した。
「いいね、タカツグ!」
「私も人間の食べもの食べたいし
厨房にいこう!」
ヴァレンはタカツグの手を
ギュッと掴んで引っ張って走りはじめた。
タカツグとヴァレンは勇者の城に
初めて辿りついたとき玉座の間と
間違えて入ってしまった城の厨房に
再びやってきた。
厨房には先ほどの料理人達がいていた。
料理人達は勇者達の食事を作り終えて
自分達が食べるための食事を作っていた。
料理人の一人がヴァレンとタカツグに
近づいてきて困った様子で口を開く。
「君達、また来たのか…」
「ここは厨房で訪問者が来るような
場所ではないんだけどなぁ…」
タカツグは料理人の言葉を聞いて
軽く自己紹介をした。
「あはは…またまたすいません」
「俺はタカツグと言ってこっちの隣にいる
小さいのがヴァレンといいます」
「実は俺達、勇者に用があって
この城に来たのですがその用も終わって
今日この城に泊まっていいって
勇者に言われたんですよね」
「ただ俺達、食べものがなくて…
もしよければ何か食べ物を
恵んでもらえないかなぁ…なんて」
タカツグの言葉を聞いた料理人は
目を丸くしていた。
「君達はエリオ様の御客人の方々でしたか…」
「これは失礼しました。
ただ、今は御客人用の食事は
用意していなくて…
我々従業員の食事でよければ
すぐに用意できるのですが…」
料理人は少し気まずそうに
二人を見て言った。
ヴァレンとタカツグは
一瞬、互いの顔を見合わせる。
「全然、大丈夫ですよ!」
「とにかく食べることができれば
それにここの端とかでも
俺達は大丈夫なんで!な?ヴァレン?」
タカツグはヴァレンの方を
振り向き言葉を投げかけた。
「私は人間の食べものが食べれて
お腹を満たせるならなんだっていいよ!
タカツグに任せる」
ヴァレンは頷き言った。
「じゃあ、あちらのスペースが
空いているのでお座りなってお待ち下さい」
「すぐに用意してお持ちします」
料理人がそう言うと小走りで
調理場に向かっていった。
ヴァレンとタカツグは料理人が
言っていた場所にいき椅子に腰をかける。
ヴァレンは調理場を興味深そうに
凝視していた。
だいたい30分後が経ったぐらいに
料理人が料理を運んできてくれた。
ヴァレンとタカツグの目の前に
ビーフシチューとパンが並べられている。
ビーフシチューの中には
大きな肉や色とりどりの野菜が
沢山入っていた。
「お肉だぁ…!」
ヴァレンは目を輝かせ満面の笑顔で
ボソッとつぶやく。
その様子はまるで新しいことを
発見したときの子供と同じように
無邪気で可愛らしいものだった。
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