第6話 勇者と再会と告白

玉座には勇者が座っており

近くには大臣だったり

配下らしき者が数人立っていた。



「タカツグ…」


ヴァレンの声はかすれていた。


「やっぱり冷たい感じだね…」



しかし次の瞬間

ヴァレンはふっと笑みを浮かべた。



「でも、まあいいや!」


「私はそんなこと気にしないんだから!」



ヴァレンは、勇者に向かって堂々と歩み寄る。

彼女の小さな体からは

不思議な自信が溢れていた。


勇者の前にやってきた

ヴァレンとタカツグ。



ヴァレンは勇者と久々の再開に

少しばかり心を躍らせ

口を開き大声で勇者に話しかけた。



「おい!元気にしてたか!」


「お前のせいでこんな小さな体に

 なっちまったんだぞ!」



ヴァレンはそう言って

勇者の顔をじーっと見つめた。



ヴァレンの言葉を聞いた

側近かつ大臣であろう男が

ヴァレンとタカツグに話しかける。



「き、君達はいったい何者なんだ?」


「い、いきなり乗り込んできて!

 謁見の許可は取っているのかね!」



大臣はヴァレンとタカツグにそう言うと

侵入者を排除するため、衛兵を呼ぼうとした。


衛兵を呼ぼうとした大臣を

勇者が冷静に制止する。



「まぁ大臣、別にいいじゃないか」



勇者に止められた大臣は

すこし口ごもりながら

勇者に発言する。



「し、しかし…エリオ様…」



勇者と大臣のやり取りを

ぼーっと見ていたタカツグは


心のなかで

(映画やアニメの世界みたいだなぁ)


と、つぶやいていた。



「勇者、すっげぇイケメンだな?」



タカツグはヴァレンに耳打ちをした。



「え、え?イケメン??」



ヴァレンはどういう意味かわからず

そう言って首を傾げる。



「エリオ様が…仰るのであれば」



大臣が勇者にお辞儀をし

二人の会話は終えていた。


会話を終えた勇者は

ヴァレンとタカツグの二人に

視線を戻す。



「僕はこの城の城主をしている

 エリオ・ブリングホールド」


「君達二人は?今日、ここに来た理由を

 教えてくれないかい?」



勇者は軽く自己紹介をして

ヴァレンとタカツグに質問した。



タカツグは一歩前に出て



「今日ここに来た理由は

 勇者のアンタに大事な用があって来た」


と、勇者に言った。



タカツグの言葉を聞いた

勇者は小さく呟き。



「勇者…」


「確かに…僕は勇者と

 呼ばれていたこともあったかな…はは」



勇者は苦笑いをしていた。



「よし!ヴァレン!」


「勇者に愛の告白をやるんだ!」



タカツグの言葉を聞きヴァレンは

一瞬、目をぱちくりさせている。


そのジト目の奥には

驚きと混乱が交じっていた。



「急にそんなこと言われても…」



ヴァレンは口元に手を当て

少し困惑したように呟く。


灰色の髪が肩から落ち

ヴァレンは視線を逸らし頬を赤く染めあげ

照れていた。


意を決したのか、ヴァレンの表情は

次第に真剣なものへと変わっていった。


その瞳にはこれまで見せなかった

感情が宿っていた。



ヴァレンは、勇者を見上げながら

ふてぶてしく鼻を鳴らす。



「ふん…」


「私が告白だなんて

 信じられないだろうけどさ」



ヴァレンはぎこちなく笑いながら

勇者の前へ踏み出した。



「あのね……私はさ…」



ヴァレンの声がふいに

小さくなり、また頬が赤く染まった。



「私…ずっと、お前のことが…」



「気になってたんだよ!」



ヴァレンは勇者に向かって叫びだす

彼女の目には涙が浮かんでいた。




「でも…私の気持ちなんて

 きっとお前には伝わらないんだろうね…」



ヴァレンはそう呟くと、

勇者が反応をするのを待つ。


彼女の心臓が激しく鼓動していた。



「ほら、勇者!」


「口を開けてぼけっとしてないで

 なんか答えてやれよ」



突然のヴァレンの告白に驚き

口を開けて固まっていた勇者に

タカツグは言った。



ヴァレンは、タカツグの言葉に

頬をさらに赤く染めた。


彼女は少し戸惑いながら

勇者の反応を待つのが

恥ずかしくてたまらない様子だった。



「そ、そうよ!」


「なにか言ってよね!」



ヴァレンは口早に言った

次の瞬間、彼女の瞳には決意の光が宿る。



「あんたがどう思っててもいいわ…」


「私は本気だからね!」



ヴァレンは深呼吸をしてから

再び勇者に向かって向き直り

じっと見つめた。




「君の気持ち本当に嬉しい」


「だけど僕にはもう妻がいてるんだ。

 残念だけど、君の愛を受け取ることが

 出来ない。ごめん」



勇者は真剣な眼差しで

ヴァレンを見つめて告白の返答をした。



ヴァレンは勇者にフラれた。



ヴァレンの表情は凍りつき

真紅の瞳の中には驚きと悲しみが

交錯していた。



「え...妻?」


彼女の声は震えていた。



「そんなの...知らなかったよ」



ヴァレンは口元を押さえながら後ずさりする。

心臓が締め付けられるような

感覚に襲われたのか胸に手を当てていた。



勇者の言葉を受け入れるのが辛いのか

ヴァレンは顔を伏せて無理に笑う。


しかし、その笑顔には力がなく

涙の雫が頬を伝った。



「私...本当にバカだね」



ヴァレンは顔を上げ、タカツグの方を見る。

その目には涙が浮かんでいた。



「タカツグ、私...大丈夫」



ヴァレンは首にかけている

龍鱗のペンダントを、ぎゅっと握り締めた。



「うん…まぁ大丈夫だ。元気だして」



ヴァレンは、タカツグの言葉に

一瞬だけ目を細める

彼女の表情にまだ哀しみが残っていたが

その瞳には再び光が宿り始めていた。



「ありがとう…タカツグ」



ヴァレンはつぶやき小さく微笑んだ。



「なんかもう…本当バカみたいだよね

 私、こんなことで泣いちゃうなんて」



ヴァレンは、握り締めていた

龍鱗のペンダントを

そっと胸元に押し当てた。


その仕草には、彼女が自分自身を

奮い立たせようとする気配があった。



「でも…タカツグの言う通りだね

 元気をだして今は前を見なきゃ」



ヴァレンはそう言い深呼吸をして顔を上げた。



「私はもっと強くならなきゃ!」


「それに、こんなとこで

 泣いてる場合じゃないよね。

 何か楽しいこと見つけに行こうよ!」



ヴァレンの目に再び力強さが宿り始めた。



勇者の口が再び開く。



「ところで…君達二人は誰なのだろう?」


「僕と会ったことあった…かな?」



怪訝な面持ちでヴァレンとタカツグに聞く。


ヴァレンは勇者の言葉に目を見開いた。

彼女のジト目の奥に驚きの色が浮かんだ。



「え、誰って...」



ヴァレンは困惑したように眉をひそめる。




「ちょっと、そんなの決まってるでしょ!」


「私はヴァレンだよ!

 ヴァレン・グレイ・ムシュフル!」



ヴァレンは口を大きく開けて

声を張り上げた。



「あんた勇者だよね?覚えてないの?」



ヴァレンの声には

少し不安が混じっていた。


ヴァレンは勇者の顔をまじまじと見つめ

その目を覗き込む。



「なぁヴァレン?」


「今は君が人間だから

 気づいてないんじゃないのか?」



ヴァレンは、タカツグの言葉に

一瞬だけ戸惑いを見せた。


彼女のジト目が少し大きくなり

真紅の瞳の中で何かを

考え込んでいる様子だった。



「人間だから気づいてない...」



彼女は小さく呟きながら

長い灰色の髪を指で梳いた。



「私は元々、大きな山に住んでいた

 灰色のドラゴンだったんだよ」


「でも、勇者のあんたに封印されて

 こんな姿になっちゃった」



ヴァレンは龍鱗のペンダントを

指でなぞった。



「だから、あんたが今の私を見て

 よく知らないのも仕方ないよね...」



ヴァレンは勇者を見つめ言った。


彼女の言葉には少しだけ

寂しさが滲んでいた。



勇者はヴァレンに言われた言葉を

顎に手をやり、考えこむ。




すると勇者は何かを思い出したように



「君はあの時の!」


「あの時の灰色のドラゴン!?」



勇者は目を大きく見開き

驚いて叫ぶようにして言った。



ヴァレンは、勇者の言葉で

ジト目が大きくなり驚きと懐かしさが

入り混じった表情を見せた。



「ドラゴン!そうだよ!」


「あんた、あの時のことを

 思い出したんだね!」



ヴァレンは嬉しそうに瞳を輝かせ

灰色の髪を揺らしながら

また一歩前に出る。



「そうだよ!私があの時の…

 大空を舞っていたグレートドラゴンだ!」


「でも今はこの通り、小さくて弱っちい

 人間の姿になっちゃってさ」



ヴァレンは肩をすくめながら

苦笑いを浮かべた。


その瞳には、過去の栄光への郷愁と

今の自分の弱さに対する

複雑な思いも見え隠れしていた。


しかし、すぐにいつもの笑顔に戻り

勇者の反応を楽しむように見つめる。



「そうだった…。確かに僕は君を封印した」


「だけど、あれは君が王都の

 上空を低空飛行で飛んで

 建物を破壊して暴れたから

 僕は君と戦うことになったんだ」



勇者は少し鋭い目つきになり

真剣な表情でヴァレンを見て言った。



「ドラゴンくん……」


「君ってやつは…

 そんな悪いことをしてたの?」



ヴァレンは、タカツグの言葉に

むっとしたように眉をひそめ

タカツグの方を振り向く。



「ドラゴンくん!?…フン!フンっ!」


「そんな呼び方するなんて許さない」



ヴァレンはタカツグに近づいて

腕を組んで顎を上げた。


その仕草はまるで

幼い子供が拗ねているようにみえる。



「確かにあの時は…

 ちょっと暴れちゃったけど...」


「人間は過剰に反応しすぎだよ!

 私は少し低く飛んで

 遊んでいただけだもん!」



ヴァレンは怒った様子で言いわけをして

目を伏せ、小さくため息をつく。


「はぁ…」




「でも...あのとき遊んでなければ

 勇者と戦うこともなく

 こんな姿にはならなくてすんだのかもね」



ヴァレンの、その顔には

どこか寂しさが漂い

僅かに後悔の色が滲んでいた。



「でもね、あの戦いは楽しかった」


「強敵との対決ってのは

 嫌でも心踊るものだからね」



灰色の髪を指先で弄びながら、

ヴァレンは呟いた。



「それに、今となっては……」


「まあ、少しは…

 悪くなかったかなとも思う」


「だって、こんなに面白い人間の世界を

 見逃すところだったんだから」



微笑んでいたヴァレンを見て

勇者は鋭くしていた目つきを和らげる。



「じゃあ、もう人間として

 生きていくのはどうだい?」


「ドラゴンに戻ったら

 また暴れてしまうだろ?」



ヴァレンは勇者の提案に耳を傾け

考え込むように黙り込んだ。


彼女の灰色の髪が小さく揺れる

その動きにはどこか寂しげな

雰囲気が漂っていた。



「暴れる?私はそんなことしないよ!」



ヴァレンはふてくされて鼻を鳴らした。



「ふん!でも…人間として生きるって

 どういう感じだろうね?」



ヴァレンの真紅の瞳は遠い記憶を

探るように揺れ動く。


女の子の姿とは裏腹に

その瞳には深い歴史と

知識が宿っていた。



「でもねぇ、こんな体じゃさ?

 何百年も生きてられないんでしょ?」



ヴァレンは自分の手を見つめながら

呟いた。



「なぁ?ヴァレンはあの勇者と戦い

 負けて封印されたんだろ?」


「なら勇者に封印を解いてもらったら?」



タカツグの発言を聞いたヴァレンは

きょとんとした目でタカツグを見つめる。



「えっ...封印?いや、でも...タカツグ」


「そんなこと言ってあいつ…

 きっと何か面倒臭そうな

 理由付けて拒否してくるかも」



ヴァレンは肩をすくめて苦笑した。




「・・・君と戦ったときに使った

 封印の技なんだけど」


「実はあれ、強力な古代の魔石に

 封印魔法を付呪してもらって使用した

 魔法で、僕自身の力じゃないんだ」


「その古代の魔石も使用時に……」



勇者は気まずそうに

二人を見つめて言った。



「じゃあ勇者じゃ

 ヴァレンを戻せないってこと?」



困惑しているタカツグは

勇者に質問した。



「残念だが僕では…どうしようも…」


「ただ、王都にいてる賢者に聞けば

 何かわかるかもしれない」



勇者はタカツグの質問に

申し訳なさそうに返答した。



ヴァレンは、勇者の言葉に目を見開いた。



「王都の賢者…..?」



ヴァレンの声には

希望と不安が混ざっていて

玉座の間の空気は重く感じられた。



・・・・・



「仕方がない

 それなら行くしかないよね!」



ヴァレンは急に興奮し

両手を握り締めた。



「タカツグ、一緒に行こうよ!」



ヴァレンはそう言うと立ち上がり

灰色の髪をなびかせた。


しかし、すぐに足元がふらついて

転びそうになり

慌てて体勢を立て直すと

顔を赤らめながら言う。



「あ、あのね」


「ちょっとだけ疲れてるんだ...

 でも大丈夫!」



ヴァレンはタカツグを見て

気まずげに笑い、再び前を向く。


その表情には期待と緊張が

入り混じっていた。



「ここから王都まで、徒歩なら5日

 馬車なら3日はかかる」


「今日はこの城でゆっくりするといい」



ヴァレンが疲れているのを

察知した勇者は優しく微笑んで

ヴァレンとタカツグに言った。



ヴァレンは勇者の提案に

戸惑いの表情を浮かべ

小さな唇が微かに動いた。



「えっと...城でゆっくりする?」



ヴァレンは首を傾げながら

少し不満そうに唇を尖らせ

足元の石畳を見つめた。



しかし、すぐに何かを思いついたように

顔を上げタカツグを見つめる。



「そうだ!タカツグ」


「一緒に勇者の城の中を

 探検しようよ!」



ヴァレンは両手を広げ

興奮気味に叫んだ。


その目は好奇心と期待で輝いている。



それでも、内心では不安があった。


封印された力を

取り戻せるのかどうか

賢者が本当に助けてくれるのか。


そんな疑問が頭の中を

ぐるぐると回っている。




だが、その気持ちを隠すようにして

ヴァレンはタカツグに笑顔を作った。

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