第3話 ドラゴン娘と異世界へ


「まぁいいや」


「じゃあさ?ドラゴンに戻れたら

 俺でも持てるような軽い武器を

 作ってくれよ。ナイフとかさ?」



「そうだ!日本刀にしよう!」


「ヴァレンは日本刀って知ってるか?」


タカツグは嬉しそうに

ヴァレンを見つめて言った。


ヴァレンはタカツグの言葉を聞いて

興味深げな表情を浮かべた。



「日本刀?もちろん知ってるよ!」


「東方の国で使われていた美しい剣だよね」


ヴァレンは一歩近づき

目を輝かせながら続けて言う。



「タカツグは見たことあるの?

 すごく鋭くて、しなやかな感じが

 するって聞いたことがあるよ」


ヴァレンは、ふと自分の髪を撫でた。



「ねえ、タカツグ」


「大剣じゃなくて日本刀のがいいかもね

 軽くて切れ味は抜群にいいと思うんだ」



ヴァレンの指先が

髪を撫でるように動く。



「私の髪の毛みたいに

 しなやかで美しい最高の日本刀が

 作れるって感じがするんだよね」



ヴァレンは胸を膨らませて

タカツグの目を見つめる。



「ふふん♪ 日本刀かぁ…」


「楽しみにしてるよドラゴンくん♪」


ヴァレンは嬉しそうにしている

タカツグに、苦笑いしながら口を開く。



「ドラゴンくん...」


「私の名前はヴァレンだよ!」


「ドラゴンくんじゃなくてヴァレン!ね」



ヴァレンはタカツグから視線を外し

周囲の風景に目を向けた。


風が彼女の髪を優しく揺らし

太陽の日差しで

灰色の髪が淡く光っている。



「タカツグ...」


ヴァレンは小さな声で呼びかけた。


ヴァレンの瞳が一瞬、遠い昔の記憶を

追いかけるように揺れた。



「私の名前はね…」


「ずっと昔に親からもらった

 大事な宝物なんだ」


ヴァレンは一瞬

何かを思い出したように目を閉じた。

長いまつ毛が震えている。



「まさか人間と冒険を

 するなんて思わなかったよ…」


ヴァレンの言葉には

どこか悲しげな響きがあった。



「さっきから冒険って言ってるけど

 ここ日本だから冒険もなにもないと思うぞ」


「未開の地とかないし」


ヴァレンはタカツグの言葉を聞いて

小さく肩をすくめた。



「うーん、まあ、確かにここは

 剣と魔法の世界じゃないっぽいよね」


「でも、それでも冒険は冒険だよ!」



ヴァレンは近くの電柱に

目をやりながら、ふと笑った。



「例えば、あの電柱の上に

 登ってみるのはどう?」


「私はそれだけでも

 けっこう冒険だと思うんだよね」



ヴァレンはタカツグの顔を

覗き込むようにして言う。



「私と一緒ならきっと、

 楽しい冒険がいっぱいあるよ!」


「新しいことをたくさん見つけて

 面白そうなことを見つけて...

 それでドラゴンの力も取り戻して」



ヴァレンは少し寂しそうに微笑んだ。



「勝手に電柱に登ったら

 警察に捕まるぞ。たぶん…」


タカツグがヴァレンに言うと

ヴァレンはきょとんとした顔をして

それからくすりと笑った。



「え、そうなの?」


「私は人間の世界って

 よくわからないんだよね。警察?」



ヴァレンは少し考え込むように首を傾げ


「でも、ちょっと興味あるかも」


「捕まっちゃうのはどんな感じなんだろう?」


とつぶやいた。

その目には、好奇心と不安が混じっていた。



「なぁ?冒険は置いておいて

 どうして封印されて

 人間の身体になったのさ?」


ヴァレンは、タカツグの問いかけに

一瞬、目を丸くして

自分の灰色の髪をいじりながら

ゆっくりと口を開いた。



「あー...それは、だねえ...」



ヴァレンの声には、どこか遠い昔の

記憶を辿るような響きがあった。



「あのとき、勇者が私に

 挑んできたんだよ。

 私は力尽きて封印されちゃったんだよね」



ヴァレンは自分の失敗を笑い飛ばすように

ニコっと微笑む。



「っで、その結果…人間の女の子の

 姿になっちゃったわけ」


「でもまあ...」



ヴァレンはちらりとタカツグを見る。



「こんな姿も案外、悪くないかもね」



ヴァレンの目には複雑な感情が交錯していた。


悔しさと諦観、そして少しだけの

懐かしさがその瞳に浮かんでいた。



それを聞いたタカツグは

軽く吹き出して笑い

ボソッとつぶやく。



「ぷっ。勇者に負けたんだ」



タカツグの言葉に

ヴァレンは表情を曇らせて

ジト目の奥に悔しさが浮かばせた。



彼女は唇を尖らせて

灰色の髪をいじりながら言う。



「うるさいなー」


「昔のことだぞ

 それに、私はまだ諦めてない」


「いつか必ず、勇者を倒してやる!」


その声には力強さと同時に

どこか弱々しい響きも混じっていた。



ヴァレンは小さくため息をつく。


「はぁ…」



「でも…あの時の私は

 自分の力に酔っていたんだ

 だから負けたのかもしれない…」



ヴァレンは、タカツグの顔を見つめる

その瞳の中には

何かを求めるような光が宿っていた。



「でもね、タカツグ?」


「私はこんな姿になってもまだ諦めてないし

 いつか必ず、元の姿に戻ってやるんだから」



ヴァレンがそう言うと

ぷいっと顔を背けた。


その仕草には子供のような無邪気さと

大人の複雑さが混ざっていた。



「それで元の姿に戻って

 んでまた、勇者に負けて封印されて

 人間の身体に戻るんでしょ?」



タカツグの嫌味な言葉に

ヴァレン眉をひそめる。



灰色の髪がふわりと揺れ、

ヴァレンは唇を尖らせて言った。



「何言ってるんだよ、タカツグ...」


「何度でも勇者に挑戦してやるさ!」



ヴァレンは両手を腰に当て、胸を張る。



「私は諦めない」


「だって、ドラゴンなんだから!」



しかし、その強がりの奥には

不安や迷いの影がちらついていた。



タカツグはそんなヴァレンの強がりを見て


「その勇者ってどんな奴なの?」と質問した。



ヴァレンはタカツグの問いかけに

一瞬考え込むように目を細めた。


彼女の表情には懐かしさと

少々の不満が混じっている。



「あいつね...」



ヴァレンは、少し遠い目をして語り始めた。



「何か特別な力を持ってたんだろうね」


「ほんとあいつ、強かったよ…」


「それにさ、ちょっと堅苦しいんだよね。

 あんなに真面目でどうするんだって感じ。

 私とは全然違うんだよ」



その言葉にはどこか寂しげな響きがあった。


ヴァレンは勇者のことを思い出すたびに

自分の中で何かが揺らぐのを感じていた。



「ヴァレンは勇者に恋してるってことだな」



タカツグは真剣な眼差しでヴァレンに言った。



ヴァレンの顔が一瞬にして

真っ赤に染まって

彼女は驚きと戸惑いを隠せずに

大きな目を見開いた。



「な、何言ってるんだよ!」



ヴァレンの声は少し震え

手もぎこちなく動き

その仕草には明らかには

あきらかな動揺が見て取れた。


彼女は自分がこんな風に

動揺するなんて思っていなかった。



ヴァレンの中で勇者との

関係性がぐちゃぐちゃに絡まり合う。


口では否定しながらも

彼女の表情には

微妙な変化が現れていた。



「ほら?映画とかでよくあるだろ?」


「ドラゴンと人間が絆を結ぶってきなやつ」



ヴァレンはタカツグの目を見つめ

話を聞いていた。



「映画と同じで勇者と戦ったことによって

 ヴァレンは恋に目覚めたって感じだな」


ヴァレンはタカツグの言葉に

小さく笑みを浮かべる

彼女のジト目が一瞬だけ和らぎ

どこか懐かしそうに見えた。



「映画?んー…そうなのかな...」


「でも、私は勇者なんて…全然違うよ。

 あいつは私の力を封印したんだから」



ヴァレンは龍鱗のペンダントを

指で弄びながら静かに続けた。



「ねぇ、タカツグ?」


「もし勇者に会ったとして...

 その時、私はどうするべきかな?」



ヴァレンの問いにタカツグは答える。



「そりゃあ……勇者に愛の告白を

 するのが1番いいだろ」


タカツグの言葉に驚き

ヴァレンは目を丸くした。


彼女の頬が微かに赤みを帯び

髪の毛をいじり始めていた。



「え…?愛の告白?」


「タカツグ、急にそんなこと言われても...」


彼女は口を尖らせ、頬を膨らませた。


「それに私は、あいつに

 力を封印されたんだよ?」



ヴァレンは視線を逸らし、遠くを見つめた。



「まぁでも、勇者に少しだけ

 感謝もあるんだよね」


「だって、あいつのおかげで

 新しい世界を知れたわけだし...」



ヴァレンは、再びタカツグの

顔を見つめ少し困ったように笑った。



「愛の告白なんて、恥ずかしいけど...」


「もしも、告白したらどうなるのかな?」



ヴァレンは自分の頬を

軽く叩き目を伏せた。


その姿はまるで、恋する乙女のようだった。



タカツグはヴァレンを見て言う。



「恋だな。君は勇者に恋してる」


「なんなら、封印された力のことは忘れて

 その姿のままの方が恋は実るかもな」



ヴァレンはタカツグの言葉に

驚き困惑していた。



「え、えぇ?この姿のままでいいの?」



ヴァレンは自分の小さな手を見て

戸惑いを隠せない様子だった。



「でも...人間の姿じゃ…

 勇者に見向きもされないかも…」



ヴァレンは、ふと何かを思いついたように

顔を上げる。

彼女の瞳は、不思議な光を帯びていた。



「ねえー、タカツグ、もし勇者が

 私のことを忘れてたらどうしよう」



ヴァレンは心配そうに眉をひそめ

自分の胸に手を当てた。


その仕草には、まるで少女が

初恋の悩みを打ち明けるような

初々しさがあった。



「いやいや、勇者は人なんだから

 今の姿のままのがいいでしょ!」


「それに勇者が倒さずに封印って

 選択するぐらいなんだから

 忘れるはずがないだろ。たぶん」


タカツグの言葉にヴァレンは

目を丸くして思わず吹き出した。



「ふふ。そっかぁ」



ヴァレンの頬が少し赤く染まり

嬉しそうな笑みが広がっていた。



「それで、その勇者はどこにいるんだ?」



ヴァレンは首を傾げ

少し考え込むように眉をひそめた。



「そうだね...私もずっと考えてたんだ」


「でも、勇者ってのは特別な存在だから

 きっとどこかにいるはずなんだよ」



ヴァレンは地面にしゃがみ込み

細い指で土をつつきながら続けて言う。



「ただ、時代や世界が変わると

 姿や名前が変わることも

 あるのかもしれない..」



ヴァレンの言葉には

一抹の不安が滲んでいた。



ヴァレンはふと顔を上げタカツグを見つめた。



「タカツグ、君は勇者が

 この世界にいないと思う?」


「何か勇者の手掛かりが

 この世界にあるのかな?」



ヴァレンの目は期待に満ちていた。


まるで、タカツグの答え次第で

未来が変わるかのように…。



「いや…ヴァレンを封印した

 愛する勇者とはこの世界で

 戦ってないんだからヴァレンがいた時代の

 勇者に会わないとダメだろ?」


「いつ、その愛する勇者と戦ったのさ?」



ヴァレンは、タカツグの問いかけに

一瞬、戸惑いを見せた。

彼女の指先がペンダントを

きつく握りしめる。



その目は遠くを見つめ、過去の記憶を

呼び覚ますように細められた。



「え…っと、もう何百年も前だよ」



ヴァレンの声はどこか夢見心地で

懐かしさに満ちていた。



「じゃあ、その何百年前の

 ヴァレンのいた時代の世界に戻って

 愛する勇者に会わないとだな」



ヴァレンは、タカツグの言葉に

目を丸くして驚き

灰色の髪が、風に揺れて少しだけ乱れた。



「えっ、何百年も前に戻るの?」


「それはちょっと...」


ヴァレンは少し困った顔をして

地面をつつきだす。



「転移なんてしたことないしなぁ…」



ヴァレンは立ち上がり

タカツグの方を見る。



「でも、タカツグがそう言うなら...」


「私、考えてみるよ。

 でも、どうやって戻るの?」



ヴァレンは、目を輝かせ

タカツグの顔をじっと見つめた。



「そうだ!私の古代の魔法書!」


「古代の魔法書の力を使って

 その中にある魔法を、あれを使えば...」



「うん、やってみる価値はある!」



ヴァレンはそう言って

キョロキョロと辺りを探索しだした。



「あった!古代の魔法書!」


「これを使えば!転移できるかもしれない!」



ヴァレンは古代の魔法書を開いて

ページをめくりだす。


転移ができる魔法を見つけたのか

魔法陣らしきものを地面に落ちていた

チョークを拾って地面に書き出した。



すると、ヴァレンが描いた魔法陣から

光が溢れ出してきた。



「さぁ!これで準備万端だよ!

 これで私や勇者がいてた世界にいける!」


「転移ができるはず!」



そう言ってヴァレンは

タカツグの手を掴み引っ張り出した。



「わかったわかった!

 いくからその異世界にはいく」


「だけど、何百年前の

 その異世界に行ったらちゃんと俺を

 元の世界に帰してくれるんだろな?」



タカツグは不安げな表情を浮かべ

ヴァレンに聞いた。



ヴァレンは、微妙に困惑した表情を浮かべ

龍鱗のペンダントをいじり始める。



「うーん...正直、保証はできないかなぁ」


「でも、私の知識と

 この古代の魔法書があるなら

 何とかなるはずだよ」



タカツグは目を開き呟く。


「保証が…できないのかよ…」



ヴァレンは地面に手をつき、目を閉じた。


長い灰色の髪が風になびき

彼女の顔には集中した表情が浮かぶ。



「魔法書はね、私の封印された力を

 引き出してくれる」


「でもね...」



ヴァレンは少し弱々しい笑みを浮かべて

タカツグを見上げた。



「転移魔法って、結構エネルギーを

 使うんだよね。私の今の体じゃ…

 ちょっとだけ不安」



ヴァレンは深呼吸をして再び目を閉じた。



「でも、タカツグがいるなら大丈夫だよね

 一緒に私の生きた時代、世界に行こう!」



ヴァレンはペンダントを

ぎゅっと握りしめると

彼女の周りに魔法陣から溢れた

光が集まり始めた。



「タカツグ!しっかり手を握っててね」


「転移が終わるまで…

 絶対に手を離さないでね。」



ヴァレンの顔は真剣そのものだった。


灰色の髪が光に包まれ

まるで古代の神話から

抜け出してきたかのように

神秘てきに見えた。



ヴァレンは息を深く吸い込み

魔法を解き放った。


魔法陣から溢れ出て

集まった光が一気に輝き

二人は白い光に包まれた。



ヴァレンは目を細め

タカツグの手を強く握りしめた。



「行こう、タカツグ。私の時代へ...」




・・・・・・



光が収まりが消えると


タカツグとヴァレンは

見知らぬ土地に立っていた。


周囲には広大な森と古びた崩れかけの

石造りの建物が広がっている。



ヴァレンはきょろきょろと

周囲を見回し興奮したように言った。



「ここ...あの頃の、私の世界だ!」


「私の記憶が正しければ

 近くにあの勇者の城があるはず...」



「勇者なのに城なんて持ってるのかよ

 金持ちな勇者だな…」


タカツグがそう呟くと


ヴァレンはタカツグの

手を掴んで引っ張り走り出した。




こうして俺、タカツグは

ヴァレンがいてた

異世界にやってきたのだった。

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