猫を撫でたい
魔法学園に入学してから、二回目の冬が訪れた。私とシーナは、沢山勉強し、沢山遊んだ。相変わらず、ネムの手伝いでダンジョンに行くこともある。その時は、たまにレンも来てくれた。
そうして、私は心身共に成長していた。
医者になるための勉強はほとんどが終盤に差し掛かり、回復魔法は二級、水魔法と炎魔法は共に三級の実力を手に入れた。
ここまで学んできて分かったことがある。私の強みは、誰よりも多い魔力量にあるんだと思う。ジジイの言っていた通り、私は生まれつき魔力量が多い。魔法の強さは「技術✕魔力量」の数式で表すことができる。
つまり、私は技術としては三級相当の水魔法しか使えないが、魔力量の多さを利用して周辺に雨を降らせることすらも可能である(そんなことをした日には疲労で倒れてしまいそうだが)。
そんな中、私はシーナとネムを誘って、街の食事処へ行くことに決めた。薄々気づいていたのだが、私はもうすぐ医者になる試験を受けることができるようになる。順調に行けば、すぐさま資格を得て、近いうちに卒業できるかもしれない。
つまり、みんなとの別れが近いのだ。だから、楽しい思い出を作りたかった……のかもしれない。
ちなみにレンも誘ったのだが、生徒会の仕事が忙しいらしく、参加できないとのことだった。少し残念である。
私は、待ち合わせ場所である正門前に来ていた。去年の冬にシーナにもらったマフラーをつけて、去年よりはお洒落な服装を心がけた(自信はないが)。
最初に待ち合わせ場所にやってきたのはシーナだった。集合時間の十分ほど前だろうか。
「ミリ! おはようございます! 随分と早かったですね?」
「おはよう、シーナ。私もさっき来たところだよ」
「そうでしたか。ネムは……まだ来てないですよね」
「あぁ、もちろん来てない」
やはり、正門前集合はマズかったか……魔道具研究棟まで行って叩き起こすのも面倒だしなぁ。などと考えながら雑談していると、集合時間の五分前にネムがやってきた。彼女にしては珍しい早さだ。
「おはよー、二人とも!」
「あれ、珍しく寝過ごしてないんだな」
「えへへー。楽しみだったからねぇ」
ネムは元気に尻尾を振った。やはり、彼女と会うと無性に尻尾を触りたくなる。サファイアと比較して、どのくらいモフモフなのかをチェックしたい。毛並みチェッカーの私にかかれば、その程度すぐに測定できるのにな。
「じゃあ行くか」
二人は元気よく返事をし、街へと出発した。去年出かけた時とは違い、雪は降っていなかった。が、侮れないほどの寒さである。やはりマフラーは必須アイテムだ。
一通り買い物を終えた後、街の食事処に入った。落ち着いた雰囲気の店内で、他の客も少なかった。ここが、シーナ曰く穴場でオススメの店だという。シーナはよく街に訪れては、良い店を探すのが趣味なのだとか。
料理の味も、もちろん最高だった。流石はシーナだ。この街を知り尽くしているまである。また、ジョッキに入った得体のしれない飲み物も、癖があるが美味しかった。特にシュワシュワした泡が良い。
ふと、ネムが食事している姿を見て、何か既視感を感じた。こう、モフモフとした既視感が……そうだ、サファイアっぽい。なんとなくサファイアっぽいのだ! 餌やりの時に感じる感覚と似ている!
「ねぇシーナ、ネムってサファイアっぽくない?」
「獣人だからですか……? 別に似てはないと思いますが」
「え、そうかな? いや、似てるだろ。尻尾も耳もあるし」
ネムは珍しく困惑していた。
「サファイアってあの猫ちゃんのことー?」
「そう、猫ちゃん」
「えぇ……?」
「だからさ、尻尾触ってやるよ。毛並みをチェックするんだ。前からしたいと思ってたんだよね」
「いや、それは絶対に駄目だよ……!」
駄目と言われればやりたくなる。抵抗しても無駄だぜ! 獣マスターの称号(そんなものは存在しないが)を持つ私にかかれば、一瞬でモフモフしてやるぞ。
「ミリ、少し変ですよ……? 顔も赤いし」
「そうか? いや、そんなことはない。私は普通だ」
「……もしかして、お酒を頼んだりしました?」
シーナが、私のコップを中身確認すると、やはりといった表情を浮かべた。
「はぁ……なるほど。ミリは酔うと獣を撫でたい衝動に駆られるんですね」
「そう、獣撫でたいんだよね……あ、よく見たらシーナも猫っぽいな! 撫でてあげよう」
「なっ……! いいです、撫でなくて! ほら、帰りますよ」
「いや、撫でるね!」
私がシーナに手を伸ばした瞬間、彼女から強烈な魔力を感じた。それに思わず手が止まる。
「……っ!」
「びっくりしましたか? これはですね、闇魔法の一種で、対象に恐怖心を与えるというものです。つい昨日習得しました。護身術みたいなものですかね」
「こ、怖かったぞ……しかし、面白い魔法だな。私にも教えてくれよ」
「いいですよ。これは闇魔法とはいえ、自衛のためなら人に向けても良いとされています。そこまで害がありませんからね」
「自衛か……」
少し反省した。クソ……二匹の猫ちゃんに囲まれているのにナデナデできないとは。なんだか残念……というか、頭がぼーっとするな。
「気持ち悪くなってきた……」
「もう、仕方ないですね」
私はシーナとネムに連れられて(介抱されて?)店を後にした。ほとんど記憶にないのだが、その日の二人の視線は若干冷たかったような気がする。というか、三日間ぐらいそれが続いた……。
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