第57話   火の女王と契約

ティエリ山脈は、大山脈の麓を沿うようにそびえ立っていた。

 西の入り口は、ヴァーレンの郊外から入れて、東方まで続いていた。

 その中程の山が急に、噴火を起こしたのだ。


 ティエリ山脈に噴火の記録は、無かった。

 調査兼火の女王の保護の命令が、ロイルの光の神殿を通して、冒険者ギルドの方に通達があったのだ。


 生まれたばかりの火の女王は、力の加減が出来ずに泣き暴れるばかりである。


 火に弱いディン族は来ていなかったが、アルゲイ族の魔族がいた。

 ロイルの魔法使いが何人か、女王と話そうとして失敗だったようである。


「こりゃ、ひで~な!! 空からだってあぢ~ぞ~!」


 マークウェルは、風の大将に空を飛ばせてもらいながら、噴火口近くに行こうとした。


 <マークウェル、これ以上は俺の力では無理だ。引くぞ!>


 大将に言われて、仕方なく下がろうとした時、大将の風の力が膨らんで、大きな結界が出来た。


「セネガルド、お前の力か!?」


 <違う……お前がピンチになると、増幅の魔法が発動する仕掛けらしいな>


「何で、今まで発動してないんだよ!」


 <発動はしてた思う。ギアがアップされたんだ。これなら噴火口近くまで行けるぞ>


 風の大将に促されて、マークウェルは寄って来る魔族の有翼種のアルゲイ族を愛刀宗平ムネヒラで切り捌いて、噴火口に近づいて行った。


 噴火口辺りは、火の精霊がたくさん生まれていた。

 皆、契約者を捜しに行ったり、どうしようか悩んでる精霊もいた。

 そういった、下位の精霊に魔族が声をかけていた。


「おいおい、精霊が魔族と契約なんて洒落にもならんぞ」


 何も知らない下位の精霊は、お持ち帰りされてしまっていた。


「……と、今は下位の精霊より、噴火口の女王様だな」


 見れば、アドリアンがただ一人近くまで辿り着いていた。

 さすがに、高位の風の奥方と契約をしているだけのことはある。


「アド!! 女王様は、ご機嫌斜めか!?」


「……と言うより、自分の力が溜まって起きてしまったようだね……

 我を忘れるくらいに泣き叫んでいるよ。誰が起こしたの!? どうかわたしを眠らせてってね」


「黙らせたら良いだろ!?」


「馬鹿か!! 地底内の彼女の力が限度を超えたんだ。ここは、彼女の興奮が治まるのを待って、話を付けた方が早い」


「おお、ここの女王様の力が手に入れば、火と大地の力も手に入るのか!!」


 アドリアンは、それがどんなに危険な事なのか説明する前にマークウェルは、喜び勇んで、噴火口の所まで飛んで行った。

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