第55話  魔族になったキム

 キムは、魔王のアグネクトに接見が許された。


 どうした事だろう。以前は別に熱い川だけであった火の川が恐ろしく感じる。

 その様子を見てアグネクトは、満足そうに火の川の炎を消してくれた。


『フッ、我らの仲間になったようだな』


 アグネクトは笑った。


『オレは、魔族じゃない!! 人間だ!!』


『強くるためには我らと取引もするのだろう? そう申したではないか』


『あれは、の娘を連れてこようとしたんだ!!』


 キムは、ショックを受けてアグネクトに言った。


『そなたの人を憎む悪の心を、がお知りになって指示されたのだ。ディン族の古き血を与えた。ほとんど不死の身体になったのだぞ』


『不死身ということか! これならば、カインの奴をあの世へ送ってやれるな……暗黒王とは何者だ?』


『そなたが知る必要はない。この巣を出ることを許可しよう。くれぐれも、人間に悟られぬようにな』


 

 ♦



 キムは、魔族の持つ破魔の剣を与えられて、魔族の巣を出ることが出来た。

 監視として詩夏シーシがついてくることになった。


 キムは、喜んだが詩夏シーシは複雑そうである。

 アグネクトとしても、もとから仲間ではない詩夏シーシの扱いに困っていたのだ。


{これから何処に行くんだ!}


『あんたは、早く言葉を覚えなさい。馬鹿ね、魔法治療を受けたのでしょう? 元の年齢に戻れたのに、自分から破滅の道を選ぶなんて』


『破滅じゃないぜ! 自分の意思だ! オレはカインの奴をぶち殺してやるのさ!』


『アグネクト様の温情が無ければ、すぐにでも餌になってるのよ。あんたの意思なんて何処にもないわ』


『なら、なんでオレを魔族にするんだよ』


 キムは、疑問を詩夏にぶつけてみた。


『それは、暗黒王様の命令があったからよ』


『それ誰だよ?』


『私も知らないの。滅多に姿を現さないお方らしいわ』


『俺が魔族になったってどうして分かるんだ』


『牧場で、あんたを観察していたの。あんたを選んだ若い女の子が、今じゃ、自分の母親くらいに老け込んでるそうじゃない。あんたと同じで自覚が無いらしいけど』


『テレジアが、ここのところ一気に老け込んだのはオレの所為なのか』


『だから、そう言ってるわ。それも、ほとんど不死身の……ね』


 キムは、詩夏シーシの言葉に初めて自分が、人間でないものになってしまったことを受け入れたのだった。 


『絶対にカインの奴をぶち殺してやるんぞ!!』


 キムの目は、本気だった。

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