第51話  牧場の中

 詩夏シーシの血を飲んで、キムは牧場の方に連れて行かれた。なんでも、ディン族の古い血を飲んだ者は魔族になれるが、稀に命を落とす者もいるそうなのだ。

 それで、人間牧場の方で様子を見ることになったのだ。


 牧場と聞いていたので、キムはどんなに虐げられているのかと心配したが牧場の中は、普通の村といったイメージで、みんな小奇麗な格好をしていた。

 人々の目に悲惨さは無く、むしろ生き生きとしていて、ここで安穏な生活を送れることに、魔族に感謝さえしていた。


 キムにとっては、驚きだ。

 魔族は、人を糧として生きているのだ。

 詩夏シーシと大山脈を越えるために、取引はしたが、それは生き延びるためだった。

 ここの奴らは違う。初めから魔族に飼い馴らされているのだ……


『キムだね?キム・ジェロン。村長のブルンクスだ』


 村長のブルンクスに挨拶された時も、キムは上の空だった。


『古代レトア語しか話せないそうだな? 村にも古代レトア語のできる娘は少ないのだ』


 いつの間にか、幾人かの乙女たちがキムの前に集められていた。

 みんな、値踏みをするような目で、キムのことを見ている。


『はい!! はい!! キムはあたいが貰ったよ。古代レトア語は、じいちゃんに習ったし、あたし、もう月のものが来てるから、問題ないでしょう!』


 手を上げたのが一番小柄な、テレジアだ。

 他の女たちもビックリしている。


『キム~ ここが、あたいの家よ。女はね、12歳を過ぎて、月のものが来ると家を建ててもらえるのよ。素敵でしょう!? ここで、キムの子をたくさん産むんだ』


 テレジアに悲壮感などない。むしろ誇りさえ持っていた。


 ただ一つ、問題があるとすれば、テレジアの年齢が14歳だという事だった

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