第50話  魔王アグネクト

「魔王様。詩夏シーシで御座います。大山脈を越える際に、餌となってくれた人間が、魔王様にお目通りを願っております」


 詩夏シーシが、火の川の向こうにいる魔王に向かって言った。

 魔王の周りには、防御のように火の川が流れていた。


 詩夏シーシはディン族なので、火に弱くて、近くまでは近づけない。


 キムが一人で、鳥頭で人間のような肢体を持っていた、魔王のもとまで行くことになった。


『そなたが、我と取引をしたい馬鹿な人間か?』


 思い切り馬鹿にされた口調に、思わず、イラつくキムだったが、こちらも生き残らなければならない。


『聖女の生き血なんてどうでしょうか? 場所は分かってます。直ぐにでもさらって来ましょう!』


『聖女だと~ ぬぬぬぬぬっっっ……』


 キムは喜んでくれているとばかり思っていた。


『では、明日にでも!』


 キムがそう言った瞬間、


『『たわけ~~~!!!』』


 魔王の怒号で洞窟内は、火の海になった。

 キムは瞬間的に近くの岩の後ろに隠れたが、ディン族の数匹は犠牲になった。


『そなたは人間なのだから知る由もないが、その昔、邪眼族の王が精霊族の生き残りの血を飲んで、力を弱めたのだ。精霊の守護を多く受けた人間の血などすすったら、寿命が延びるどころか、力まで奪われるわ!!』


 アグネクト王は、一気に話すとキムに言った。


『そなた、光の一族と会っであろう。魔族とは相容れぬ気で充満しておる。大人しく、牧場で暮らすが良い。女とたくさん交わって、たくさんの子供を作るのだ。それがそなたのここで生き残れる道ぞ。その能力が無ければ、今ここで処分する!!』


『待ってください!! オレ嫌です!!牧場で、家畜のように扱われるのは!!オレは、強くなって絶対に憎いあいつを殺してやるんだ!!』


アグネクトは、キムから人間には珍しい負の感情を持つ波動を感じ、詩夏シーシを側に呼び寄せた。


『そなたの血を少々与えてやれ』


『本気ですか? 魔王様』


アグネクトの言葉に詩夏シーシは、驚いた。


『これほど、同族を憎む奴もおるまい』


それがどうなることなのか分からぬまま、ジェルンは詩夏シーシの血を少し飲んだのだった。 

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