第49話  魔族の巣

 ジェルンの付いた先は南方の湿度の高い蒸し蒸し蒸した気候の土地だった。

 北国育ちのジェルンには、耐え難いものだ。


『こっちよ、ジェルン。古代古代レトア語をマスターしてるなら、その方が都合が良いわ』


『勝手に、押し付けて来たんだよ!あいつが!』


『さっきの人?』


 詩夏シーシは、怪訝そうに言った。


『あの人に迂闊に近づいては駄目よ。高位の精霊がいたわ。

 それに、あの容姿……噂に聞く光の一族かもしれないわ』


『何だよ? ふざけてるのか!! 確かにちびりそうな目にあったが、それより、詩夏シーシ聞いてくれ。魔王様に相応しい土産の場所を教えるぜ』


『あなたが、私たちと取引したいというのなら、牧場へ入ってもらうしかないのだけど……? 良いの?』


『? 牧場だって!? 何のさ?』


『人間に決まってるでしょう、むやみに人を襲わない代わりに、魔族は人間を飼って増やしてるのよ。そうすれば、北の地方みたいに節操なく人間を襲わなくても良いでしょう?』


 ジェルンは、呆気に取られてしまった。


『待て待て、そこに入れば、オレもいつかは、魔族の餌になるってことか?』


『基本的に12歳より前の人間は、贄にはならないそうよ』


 ジェルンは、大きく息をついた。

 取り合えず、安心したのだ。


『ところで、ジェルン。こちらではキムになるそうよ』


『なんでだよ!?』


『こちらでは名前が先で、姓が後読みになるの。だから、キム・ジェルン、キムが名前になるわ』


『もう好きにしろ!』


(金髪野郎も似たようなことを言ってやがった!! オレは、名門キム家の一人息子だぞ! 家畜のように扱われてたまるか!!)


 一人で憤慨しているキムに詩夏シーシが声をかけてきた。


『盛り上がってるとこ悪いけど、あんた種はあるわよね?』


『どういう意味だ!?』


『人間は、魔族にとっては家畜なの。産めよ育てよ、育ったら、贄に差し出す。がここのルールらしいわ』


『その前に、王に会わせろ、手土産があるって言ったろ』


 ジェルンの必死の訴えに、詩夏シーシは牧場の方へ行きかけて、洞窟の前で見張りをしていた仲間に何かを話していた。

 見張りの魔族は、詩夏シーシに礼を尽くして接しており、彼女の魔族としての古い血筋は、こちらでも重要視されているのが分かった。

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