第47話  逃げ出したジェルン

若さを取り戻したジェルンは、隙を見て逃げ出すことを考えていた。

 銀色の瞳の奴らが、カインのことを庇っていることは分かったが、何故、奴は金髪なんだ?

 しかも、こちら流に名前も変えて、堂々と生きてやがる。

 訳の分からないジェルンだったが、今はここから逃げ出す方が先だ。詩夏シーシとの約束の日は、迫っていた。


 ヴァーレン皇国の郊外、ティエリ山脈への入り口で詩夏シーシと別れていた。


 南の人間の世界にジェルンは絶望していた。

 金になると思ってい毛皮を、街に着いて直ぐに盗まれた。

 王都に着いたら、追剥にあった。

 無一文で、空腹のジェロンを救ってくれたのは、闇の神の神殿跡に出来た新興宗教の会主だった。

 ところが、言葉が分からないジェルンは、トラブル続きで、マナーを守らない、神への祈りは拒否する。食事のマナーもグチャグチャ……

 頭に来た会主に、追い出されたところを、マークウェルとアドリアンが通りかかったのだ。


 ジェルンには、幸だったのか、不幸だったのか。


『腹が減った。ろくなものを食べていないんだ』


 ジェルンは、部屋の中程にいて、勧められた椅子に座って言った。


『あら、失礼。直ぐに用意するわ』


 リエンファが言った。

 この家には、警備の騎士と身の回りのことをするオバサンがいた。

 オバサンが、4人分の食事の用意をしてくれた。

 簡単な、豆のスープとパンと肉料理だった。


 肉料理を添えられた、ナイフとフォークで食べないジェロンを会主は、野蛮人扱いした。北の地方では、肉は千切って食べるのが礼儀だ。

 そう食べようとすると、カインは、上手にナイフとフォークを使って食べていた。イラついた。

 だが、ここでは分が悪い。

 神女しんにょの力の持ち主、風の力を持つ恐ろしい奴だ。

 カイン一人ならば、なんとかしただろうに……


 気を許したのか、食事の後に拘束されることは無かった。

 表向き、従順に大人しくしていたのだ。


 深夜、皆が寝静まった深夜__


 ジェルンは、そ~っと起きだしてヴァーレンの王都を出て行った。

 ジェルンの服には一本の銀色の糸がくっ付いていたが、彼は気が付いていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る