第45話  恩情

{キム・ジェルンなのか! 隊長殿の?}


{そこを動くな!! 貴様を殺してやる!!}


 目を血走らせたジェロンは、唾を吐きながら喚いていた。


「ねぇ、すごいこと言ってるのは、分かるけど……」


「ああ……何で、あんなに怒ってるのか、俺も分かんねぇ」


 マークウェルは、全く身に覚えがなかった。

 そこへアドリアンが、ジェルンの前に出て行って、風の奥方と喋っていた。


 ジェロンは、何か分からない力で、拘束され、座らされた。

 そして強制的に古代レトア語が解るようになった。

 全て、奥方の力だった。


『これで、僕ともこの地方の人の一部の人とは、話が出来るね。君の名前は? 僕は、アドリアン・ロイルっていうんだよ。君、魔族と契約したでしょう? 君から、魔族の匂いがプンプンするよ。言葉もそうだけど、君が人に受け入れられないのはその所為だよ』


『キム・ジェルンだ。何を分かったような口の利き方をしやがる! あの女がいなけりゃ、山越えもできなかったさ!』


 ジェルンの答えにアドリアンは、言った。


『一度だけチャンスをあげるよ。元の年齢に戻してあげる。だからもう、マークウェルを狙うな、マークウェルは、とっくにこっちの人間になっているんだ。君は君で生きて行け。マークウェルでも2ヶ月ちょいで言葉は覚えたと聞いてるし、若さが戻れば、覚えも良くなるはずだよ、キム』


『俺は、ジェルンが名前だ!!』


『キムも良い名前だよ。後をついておいで』


 アドリアンは、下町の裏通りへと向かった。

 ジェルンは、手を後ろで拘束されたまま、半ば強引にアドリアンの後を歩いていった。

 彼の意志など何処にも無い。

 その後ろから、風の魔法使いの恐ろしさをまざまざと見せつけられるように、マークウェルは歩いていた。

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