第36話  別れ

「魔王のアグネクト様を頼ろうと思ってるわ」


 詩夏シーシは、傑倫ジェルンに言った。


「あなたとは、地上についたら別れるわ。その方が良いでしょ?」


 傑倫ジェルンは、詩夏シーシの言葉に驚いた。


「それはないだろ! オレたちはもう、一蓮托生だろう。離れられないい!!」


「これ以上、一緒にいてもあなたにメリットは無いわ。あなたは、18歳なのでしょう? 今のあなたは、倍の年齢よ。魔王様の処に行ったら餌を手土産に持ってきたかと思われてしまうわ。あなたは、人間の世界へ戻るべきよ」


「フン!! どうせ、こっちにゃ知り合いなんか一人もいないんだ。俺は

 強くなりたいんだ!! 魔王とだって取り引きするぜ!」


 詩夏シーシは、この雄の単純さに辟易していた。

 魔族にとって人間は餌でしかないのだ。

 それを理解していない。

 この雄は、強くなりたいなど、オレをこんな目に合わせた世界をぶっ壊してやるなどと、およそ人間らしくないことを言っている。


 人間とは、もっとか弱いの存在ではないか?


「アグネクト様の所に行くけど、こちらの方が特殊能力が使えるわ。あなたを連れて飛ぶことも出来るけど。本当に良いの?ひと月あげるから、

 人間の世界に戻ってみて?あんたが、これ以上老けていくのを見て行きたくはないのも本当よ」


 詩夏シーシは、最後の情けで傑倫ジェルンを解放しようとした。

 傑倫ジェルンは、しぶしぶそれを受け入れた。

 所詮、人間と魔族なのだ。相容れないの間柄だと、諭されたのだ。


 大山脈を抜けて、小さな山を飛んで移動し、民家のある所まで来た。


「もし、ひと月後までにこっちの人間の世界に馴染めなかったら、アグネクト様に会わせるわ」


「フン、人間の中で底辺でいるより、魔王と取引して強くなりたいんだがな!」


「まだ、言ってる」


 詩夏シーシは、大きな溜息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る