第34話  追放された男

「「馬鹿者!!」」


 破浪ポーラン皇帝の怒号が執務室に響いた。


「何のことでしょうか!? オレが何かしましたか?」


 将軍の秘蔵っ子として、キム家の一人息子としても将軍には目をかけてもらっていた傑倫ジェルンである。


 破浪ポ-ラン皇帝は、忌々いまいま傑倫ジェルンの顔を見た。


「お前の今までの手柄は、全部部下のものだったそうだな!?」


「誰が? そんなことを」


「死んだ神女しんにょの置き土産だ。幼馴染を陥れられたとな」


「彼女が死ぬわけありません!! ピンピンしてましたよ!」


「ほぉ……神女の寝所に行こうとして、返り討ちにあったことを認めるのだな?」


「それは、オレが悪いのではありません! オレは、目障りな部下を排除しただけです」


「結果我が国は、神女しんにょと有能な兵を失い、無能な将校を作ってしまったわけだ」


 破浪ポーラン皇帝は、そこまで言うと大きく息を吐いた。


「「お前をキム家の息子だと甘く見過ぎたようだ。今日限り、救世軍の将校の任は解く。家も継がせぬように言っておく。帝都からも出て行け! 何処なりと行くが良い!!」」


 皇帝の怒号が再び響いた。


「待ってください!! 彼らは何処に行ったのですか?」


「ふん! 良い勘だな」


神女しんにょが死んだなんて信じてませんでしたよ。前日までオレを廊下で転ばせるわ、天井まで浮かせるしで、パワー全開だったのですから」


「幼馴染と大山脈を越えると言っておったな。この国には、未練もないそうだ」


「大山脈越え?」


 人の足では越えられぬと言われる、大陸を南北に横断する天を衝く大山脈地帯だ。


 皇帝の執務室から出ると、傑倫ジェルン将校は、ただの金傑倫キム・ジェルンになっていた。

 帝都では、母の実家に身を寄せていた父親の元には、皇帝の使者の方が早くついており、父親からは勘当を言い渡された。

 傑倫ジェルンは、陥れたはずの珂英カインに陥れられた気がしてならなかった。そうして、激しく珂英カインを憎んだ。


 傑倫ジェルンは、大山脈越えを考えていた。

 神女しんにょが付いていたとはいえ、女連れの山越えなど無茶な話だ。

 だが奴らは、やったと言い切られた。

 (なら、オレも行ってやる! あいつらに出来てオレに出来ないはずはない!!)


 傑倫ジェルンは、ありったけの豪華な毛皮を用意して、食料を数日分持って家を後にした。

 父親に最後の別れを言おうとしたが、父は世間体を気にして、傑倫ジェルンに会うことは無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る