第33話  来 破浪(ライ・ポーラン)将軍

 その日、破浪ライ・ポーラン将軍は、とても不機嫌であった。

 事もあろうに、国のトップたる神女しんにょが失踪したのだ。

 置手紙に、幼馴染を陥れた軍人の名前と、これ以上人間なのに神扱いされるのは御免だと書いてあった。


 神女しんにょ蓮花リエンファの能力を見抜き、神格化させたのは破浪ポーラン将軍本人だった。

 突然の神女しんにょの失踪は、直ぐに世間にバレた。

 民衆は、動揺した。

 困った将軍は、自ら皇帝の座に就くことにした。


 神女しんにょは急逝したことにした。


 魔族から、民衆を護ってくれた救世軍を率いていた、英雄の来破浪ライ・ポーラン将軍が、皇帝の座に就くことに民衆の異論はなかった。


 破浪が、皇帝になって民衆が落ち着いて来ると、蓮花リエンファが失踪したもう一つの原因を探ることにした。


 「幼馴染の張 珂英チャン・カインが陥れた……か……直属の上司は、誰だ?」


「お調べした結果、キム家の傑倫ジェルン様です」


「ほぉ、キム家か……西方の辺境の地主だな。至急呼び出してくれ」


 破浪ポーラン将軍は、部下に傑倫ジェルン隊長を呼び出した。


 ♦


 その日傑倫ジェルンは、ご機嫌だった。

 目障りな男を魔族の多い地区に置き去りにして来てやったのだ。

 笑いが止まらなかった。

 もう二度と会う事もない。

 魔族に食われれば良いのだ。


 今回の功績が認められ、隊長から将校へ昇進した。

 父母には、さすがはキム家の息子よと、褒められた。


 一人で隊長室で祝杯を挙げていた。

 そこに皇帝からの呼び出しが来た。


「急用とのことです」


 伝令は、多くは語らなかった。

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