第30話  ロザリンデ・リドール

 風の精霊セネガルドは、通称を風の大将と言った。恰幅の良い親父のイメージだ。美形揃いの精霊の中では、別の意味で異端だった。


 上位の精霊だったようだが、魔法の知識がないマークウェルを馬鹿

 にすることなく受け入れてくれた。


 マークウェルは、風の大将から空を飛ぶこと、姿を消すこと、風の噂を集めるコツなどを学び、南で生き延びる術を身に付けた。

 騎士団に入って半年、そろそろ限界だった。

 自分よりも年下の、しかも弱い奴の下にいることが、マークウェルのプライドを傷つけていた。


(逃げ出してやるんだ!! 絶対に!!)


 心に硬く決めていた。 


 今のところ、銀の森と隣接している騎士団の中しか知らない。

 そんな世間知らずが、騎士団で先輩騎士のルーシャス相手に、南の地方の地図を手に入れて、あーだこーだ聞き出していた。

 マークウェルの事情をヴァレリエ団長から聞いていたル-シャスは、懇切丁寧にマークウェルに、西域の国々の事や、アルテアという国には、冒険者ギルドがあるということまで、逃亡計画の片棒を担がされていた訳だ。


 その日も、騎士団の裏側で風の大将と、飛ぶ練習をしていた。

 従騎士で飛べるなんて知られたら、ずっと伝令にされてしまう。

 風の大将と契約したことは、みなには黙っていた。幸い、精霊が視える人は、マークウェルの周りにいなかった。

 中には、神官の資格を持った聖騎士などもいる。

 騎士団の全員が、精霊が視えないという訳でもない。


 飛んでいたら、下から女の子の声がした。


 手を振ってマークウェルの名前を読んでいた。

 見たことのない子だった。

 淡い金髪に軽くウェーブがかかった髪を後ろにながしていた。

 幼く見えたが、リエンファくらいか?


「誰だ? お前?」


「マークウェル・カインさんね。ここを出ていきたいんでしょう?」


 マークウェルは、ドキリとした。


「おまっ!! 誰かに聞いたのか?」


 少女は首を降った。


「違うわ。私の使い魔、テティスよ」


 そう言うなり、少女はポケットから小さなネズミを出して頬擦りした。


「私は、ロザリンデ・リド-ルよ。お願いがあるの。あなたが、ここを去る時に私を連れていって欲しいの」


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