第15話  置いてけぼりの珂英

 一人離れたところで、火矢を射っていた珂英カインは、ディン族が逃げてくる最後の一匹にまで火矢を射かけて、その場に止まった。

 次の命令が、来るはずだった。

 撤退なのか? 徹底的に魔族を追うのか?

 しかし、いつまでたっても珂英カインのところには誰も来なかった。


 避難していたイシュア地区の人々が戻ってきて、珂英カインの隊は既に三日も前に撤退して、帝都に帰ったことを知ったのだった。


 ♦️


(俺、なんで置いてきぼりなんか食らうんだ?)


 珂英カインは、何がなんだか分からなくなった。

 仕方無く、徒歩で帝都まで戻った。

 戻ってきて愕然とした。

 珂英カインは、死んだことになっていたのだ。


(張 珂英チャン・カイン上等兵、魔族の巣に飛び込み、戦死》


 今回の作戦の戦死者の名簿の中に珂英カインの名前があった。


 何故、このような扱いを受けるのか分からない。

 ただ、金傑倫キム・ジェロン珂英カインのたてた作戦の手柄になっており、この作戦の功績で特例で将校への出世が、約束されていた。

 それこそ、第二の来破浪ライ・ポーラン将軍になるのではと、彼を英雄扱いして帝都は賑わっていた。


 途方に暮れる珂英カインの頭の中に、聞きなれた声が聞こえたのは、帝都についた日の夕暮れだった。


河允カイン? 大丈夫? 怪我してない?』


蓮花リエンファか? お前こそ大丈夫か? 連れ去られて以来会ってないけど』


『私は大丈夫よ。厄介なことを押し付けられてるだけ』


 蓮花リエンファの異能は、珂英カインは幼い頃から知っている。こんな風に離れたら場所にいても、会話が可能なのだ。


蓮花リエンファは、俺が死んだとは信じなかったようだな』


『当たり前だよ、河允(カイン)が死ぬわけ無い!! 金傑倫キム・ジェルンがあんたを陥れたのよ。

 残念だけど、死んだことになって、戸籍が抹消されたあんたは、もう帝都で暮らしていけないわ』


 珂英カインは、ポカーンとしてしまった。




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