第10話  珂英(カイン)都へ行く

「やい!! 蓮華リエンファを返せ!! 若馨クゥシン婆様が寢込んじまったじゃないか!! 長老をもっと労われよ!!」


蓮華リエンファなら、とうに都に行った。父上と一緒にな。もう村には戻らん。諦めるんだな」


傑倫ジェルンは、二日前に格闘で負けた珂英カインに冷たい視線を送りつつ、非常に面倒な奴だと思った。

昨日は、珂英カイン自身が来れなかったのだろう……身体中が痣だらけだ。


「婆様は年だ!! あいつに癒してもらわないと……」


「自分の方こそ、蓮華リエンファが必要なのではないか?」


「痛くねーよ!! こんなもん! 唾をつけときゃ治るさ」


珂英カインの下品な物言いに、傑倫ジェルンは眉をひそめた。

彼は、自分のことを高貴な生まれだと誇りに思っていたので、こういう蛮族みたいな事を言う珂英カインのことは見下していた。


「オレも、近い内に都へ行く。ライ将軍の軍に入れてもらうって、お側近くで使えるつもりだ」


それを聞いた珂英も、あることに閃いた。


「俺もいっしょに連れて行ってくれ」


頭一つ分大柄な珂英カインに胸倉を掴まれた傑倫は、呆気に取られてしまった。


「俺も来将軍の下で働きたいんだ!!」


「ふん!! 軍隊への口利きぐらいなら、父上に頼んでやってもいいぞ」


珂英は、16歳にしては大柄で、態度も横柄なので帝都の軍隊など絶対に馴染めるはずがないと踏んだ傑倫ジェルンの判断であった。


珂英は、三日後に帝都に出発するという傑倫ジェルンに遅れること七日、長年世話になった長老の若馨クゥシン婆に別れを告げて、村を離れたのである。

その背には、父の遺してくれた長刀『宗平』があった。


この時の珂英は、自分が軍隊で功績をあげ、一個小隊で魔族の巣をせん滅させ一躍、英雄扱いされるようになったライ将軍のようになりたいと思っていたのである。


――――その後、珂英カインは二度と村へ帰ることはなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る