第9話 李浩然(リー・ハオラン)との対決

 金傑倫キム・ジェルンは、正午ピッタリにやって来た。

 今日は、取り巻きの子供ではなく、体格の良い二人の青年と一緒だ。


「おい!! 傑倫ジェルン坊ちゃん、あんたとの対決だろ?」


「そうだとも、だけどオレが戦うなんて一言も言ってない」


「卑怯だぞ!! 華々、婆様と奥に言ってろ!!」


 珂英は、喚く。

 傑倫ジェルンは、ニヤリと笑って、連れてきた二人のうちの小柄な男に向かって、若婆クゥシン婆を人質に取るように命じた。

 それは、実行され、小刀の名手であるその男に蓮華は、目の前で婆様を奪われたのである。


蓮華リエンファ! 異能を使おうとしても無駄だ!! 使ったら、長老が死ぬことになるぞ。嫌だったら、俺のそばで珂英カイン浩然ハオランの決闘を見物しようぜ」


「誰があんたなんかのそばに行くもんか!! あんたなんか大嫌い!!」


「気の強い娘だな。魔族の娘かもしれんのに、この村でその年までおいてやったことを父上に感謝できんのか?」


「感謝なら、川から私を拾ってくれた珂英カインのお父さんと若馨クゥシン婆様にしてるわ!!」


 蓮華リエンファは、傑倫ジェルンに向けて思い切り舌を出した。

 そんな蓮華リエンファ傑倫ジェルンは、笑みを漏らし、強引に隣に座らせた。


浩然ハオランは、隣の村で五年連続格闘の優勝者だ。お前も体格は良いが、肉付きが違うなぁ」


 そう言って、傑倫ジェルンは笑った。


若馨クゥシン婆様を人質に取るのも、華々ファファを連れて行こうとするのも卑怯だぞ!!」


「お前たちが、地主である父上の言うことを聞かないからだ。オレだってこんなやり方は好きじゃない。だがな……お前らは、所詮小作人なんだ。

 特に珂英カイン、お前の先祖は流れ者だしな。

 お前の父たちは、鍛冶職人だったが、一族の者はみな、流行り病で亡くなったり、外に使いに行って魔族に襲われたりして生き残ってるのは、お前一人だとか? お前は、父上のどんな役に立つというのだ?」


「地主様なんて知らねぇよ。俺は、都に行って破浪ポーラン将軍の下で働くんだ。そんときゃ、若馨くぅしん婆様も蓮華リエンファ

 連れて行くぜ」


「そうか……お前が何処に行こうが勝手だが、その刀は今の戦いには無用の物だな。浩然ハオランこちらへ持ってこい」


 そう言われて頷いた大男は、珂英の近くまで来て、持っていた宗平ムネヒラを簡単に奪って言った。


「おい!!」


「格闘で勝負だ」


 浩然ハオランが、珂英カインを睨みつけて挑発してきた。


「その手に乗るかよ!!」


 珂英は思い切り、浩然はおらんの真正面から突っ込んでいった。


「駄目だよ!! 珂英! もっと、頭を使って下から行かなきゃ!!」


 蓮華リエンファが、堪らなくなって声を出す


 簡単に転がされる珂英カイン


(くっそう~~!! 宗平ムネヒラさえあれば、こんな奴蹴散らしてやるのに!!)


 格闘術の術を知らない珂英カインは夕暮れになるまで何度も転がされた。

 それでも、必死に相手に食らい付いて行った。

 日が暮れて、誰かの腹の虫が鳴いた。

 それが合図のように傑倫ジェルンが立ち上がった。


「約束だ。浩然ハオランに勝てなかったのだから、蓮華リエンファをもらって行くぞ」


「嫌だ!! 珂英カイン!! 珂英!! 助けて」


 蓮華リエンファは、浩然ハオランに担がれて傑倫ジェルンと共に来た男と村はずれを出ようとしていた。


 ボロボロの珂英カインが追って来て、なおも食い下がろうとした時、「シュン!」と小さな音がして、一瞬だけ光ったような感じがした。

「?」珂英は、直ぐにその正体を知ることができた。


 傑倫ジェルンの連れてきたもう一人の男が、小刀を珂英カインに向かって投げて来たのである。

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