第8話 珂英と金傑倫(キム・ジェルン)

 今日も、河允カインの住む村はずれの場所に、地主じぬし様の一人息子の傑倫ジェルンが、取り巻きの子供達を引き連れてやってきた。

 蓮華リエンファを連れて行くためである。

 傑倫ジェルンの父親である地主の金沐辰キム・ムーチェンは、蓮華リエンファの力を珍しがって、都の権力者の破浪ポーラン将軍に献上して自分の立場が都で有利になるように画策してしたのだ。


 大人による誘拐では、村の者が騒いで、それが将軍の耳に入れば外聞が悪い。沐辰ムーチェンは、そんな世間の目をが気になるたちの男だった。


 それで、息子の傑倫ジェルンを使って、蓮華リエンファを連れて来させようとしていた。

 子供同士の方が、油断すると思ったからだ。

 あくまで、蓮華リエンファ自身の方から、キム家に来るように仕向けていた。


 ところが子供たちは、毎回蓮華リエンファをからかって、喧嘩になるし、傑倫ジェルンも上から目線の命令口調で言ってくる。

 賢い蓮華リエンファには、傑倫ジェルンと一緒にここを出て行ったら、二度と戻って来れないことは分かっていた。


「今日は、新品の着物を三着も仕立てて持って来たんだぞ。ありがたいと思え。どうして父上の言うことが聞けないんだ? 都で綺麗な着物を着てここでより、ずっと美味い物が食えるんだぞ」


「知らない所に行くのは嫌!! 珂英カイン若馨クゥシン婆様のそばを離れるのはもっと嫌よ!!」


 蓮華リエンファ珂英カインの後ろに隠れた。


「いい加減に諦めたらどうだ? こんなに嫌がってるのに、毎日毎日、来やがって」


「父上の言いつけなんだ。オレだって好きで来てる訳では無いさ」


「今日も宗平ムネヒラで追い払って欲しいのか?」


 珂英カインは長刀を抜いて傑倫ジェルンの前に突きつけた。


「おいおい、またか? ああ、も父上が欲しがっていたな。こうしよう、オレと勝負しようぜ。勝ったらオレガ貰う。どうだ?」


 傑倫ジェルンは、にこやかに笑って言った。


「馬鹿か? 親父の形見の刀だぜ。渡すわけがないだろう」


「では、蓮華リエンファに家に来てもらうしかないな」


宗平ムネヒラ蓮華リエンファは関係ないだろ!!」


「いーや!! どちらも父上の所望品だ。父上は欲しいと思ったものはなんでも手に入れてきたんだ。都生まれの母上だ」


 傑倫ジェルンは、大真面目に言う。都生まれの下級ながら貴族の母を持つことは、傑倫ジェルンの誇りでもあった。 


「対決は、明日だ。お前が巻けたら、蓮華リエンファをもらって行くからな」


「勝手な事を言うな!!」


 傑倫ジェルンは、何か考えが浮かんだらしく、周りの子供に耳打ちをすると、その日は帰っていった。

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