第5話  景平(カゲヒラ)の話 (2)

 それから景平には、身体に変化があった。

 食事をしなくてもお腹すかない。

 生理的な欲求も無くなっていた。


 その代わりたまに、その村にいた女の相手をさせられた。


 そんなに頻繁では無かったので、苦にはならなかったが、景平カゲヒラが我慢ならなかったのが寒さである。


 どんなにふきっ晒しになろうと彼らは、火を使うことをしなかった。


 景平がコッソリ火を焚こうとして、水をぶっかけられたことは、一度や二度ではない。


「いい加減、あんたも諦めたら?」


 馴染みになった林杏リンシーが声をかけた。


「俺は、人間だ。人間は、火で暖まりたいんだよ」


「あんたはもう、魔族だよ。死ぬこともないし、飢えることも無いんだ」


「いいや、俺は人間だ。俺には陶国とうこくの勇ましい戦士の血が流れてるってじいさんが言ってたんだぜ」


「だから何処にあるのよ?陶国って」


 林杏リンシーは、もううんざりだった。


 そして景平は、ここではやってはいけない大事件を起こしたのだった。

寒さを我慢することは出来たが、どうしても火で身体を暖めたかった景平は、夜中に木の枝をたくさん集めて、大きな焚火をしたのだ。

 久しぶりの火にホッとしていたら、何やら、周りからバチバチと音が聞こえてきた。それがディン族だと分かるのに、そう時間はかからなかった。景平の様子を見に来て、火に巻き込まれてしまったのだろう。

 こんなに良く燃えるのかというくらい魔族は燃えていた。火に弱い種族であったようだ。だからこそ、あんなに焚火を禁じていたのだろう。

 

でも命は尽きないようで、苦しそうにしている者は、仲間の手で右腰のあたりを短剣で突かれていた。




 ♦




「仲間を殺した罪は重いぞ。景平カゲヒラ。そなたにはそなたの血で償ってもらうぞ。いつか、そなたの血続が我らの仲間となるのだ」


 宇航ィユハンに怒鳴られて、景平は数年ぶりに魔族の巣を出ることが出来た。

 宇航の言っていたことは、全く持って、要領を得ていなかった。が、数十年を経てそれは現実になる。


 故郷の鍛冶師の村へ戻って景平は愕然とした。

 兄の宗平はとうに亡くなっており、流行り病や、魔族に襲われて自分の血族に当たるものが、甥の俊是ジュンジェその息子のと河允カインだけだとは……

 叔父の景平から魔族の事をを聞いた俊是ジュンジェは、河允カインを隠す様に婆に預けて育て、紅輝石で自分は、傷つきながらも名刀を鍛えて、宗平ムネヒラの銘を彫って、河允カインに与えた。


 景平は、美しすぎる魔族の弱点を俊是ジュンジェに伝えると、村から出ていった。その後の彼の足取りを知る者は誰もいない。


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