第3話  蓮の上の赤ん坊

(!?)


 俊是ジュンジェは、川上に向かって、注意深く歩いた。


 すると、驚くこと大きな蓮の《はす》の葉の上に生まれたばかりの赤ん坊が、裸で流されてくるではないか。


「なんと!!」


 俊是ジュンジェが驚いて声を上げると、蓮の葉はピタリと方向転換をして真っすぐに俊是ジュンジェの前に止まった。


 へその緒が付いてる赤ん坊を、何故に川へ捨てたのか。

 女の子なのは見て直ぐに分かった。


 俊是ジュンジェは、蓮の葉の上からその子を抱き上げ、村まで帰ることにした。


 村では父の帰りを、今か今かと待ちわびていた珂英カインがいた。


「父ちゃん~~ おかえり~ あれ? その子は」


「婆様にまた、手間を増やしてしまうな。川に捨てられていた子だ」


「父ちゃん~ 婆様の所の薬草粥は食べ飽きたよ~ 俺は父ちゃんと暮らしたいのに~」


 四歳の珂英カインは口を尖らせた。


「それより、若馨クゥシン婆様の所へ行って婆様を呼んで来い。

 体温が大分下がってきておる」


「分かったよ」


 珂英カインは、俊是ジュンジェのもとから走り去った。


 直ぐに婆がやって来て、柔らかい布でで包まれると手当てがされた。


 赤ん坊を抱いていた俊是ジュンジェの手にも布が巻かれていたので、婆が「お前もケガをしてるのかい?」と聞いてきた。


 だが俊是ジュンジェは、「はて?」と思った。

 赤ん坊のことに夢中だったので、痛みは忘れていたが、右手がただれるれほどの大きな火傷を負ったはずである。だが、今、痛みは全くない。

 布を取り去ると不思議なことにやけどの痕は何処にも無かった。


 恐る恐る、手のひらに巻いた布を取ると、火傷の痕など何処にも無かったのだ。


「女の子だねぇ、名前は何とする?」


 若馨クゥシン婆が俊是ジュンジェに聞いて来た。


「大きなはすの葉に乗って流れてきました。蓮花リエンファでどうでしょう?」


 婆は大きく頷いた。


珂英カイン、妹分だよ。可愛がっておあげ」


「ちっこ~い!!」


 長老のところで、他の村人の集落とは離れた場所で暮らしていた珂英カインにとっては、珍しいおもちゃが出来たようなものである


「俺専用の召使にするんだ~」


 等と言っていたが、蓮花リエンファは、河允に負けないくらいにお転婆で、しかも、不思議な力を持っていた。


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マークウェル英雄譚《後世に名前を語り継がれなかった英雄の話》 月杜円香 @erisax

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