第2話  宗平(ムネヒラ)

 父の鷹平タカヒラを失った息子の宗平ムネヒラは、この土地風に、チャン氏を名乗り名前はソウヘイとした。村の女と結婚をして、三人の子供にも恵まれたが、弟の景平カゲヒラは、村に馴染めずに長刀を一本持って、村を出奔した。カゲヒラの行方は長く分からなかった。


 張宗平チャン・ソウヘイとなった宗平は、鍛冶氏の技術を守り長男の俊是ジュンジェに教え込み、俊是も成長して村の娘、朱亞シュアと結婚をして一人息子の珂英カインを設けた。


 珂英カインを生んですぐに、朱亞シュアを失った俊是ジュンジェは、村の長老の若馨クーシン珂英カインの世話を頼んで、仕事に没頭した。


 珍しく、大山脈の麓の山が噴火した。

 俊是ジュンジェは、様子を見に行ってみようと思った。

 村の婆、若馨クーシンに四歳になったばかりの珂英カインのことを頼み、旅に出たのだった。


 だがそれは、俊是ジュンジェにとっては大変な旅になった。

 村を一歩外に出ると、魔族がうようよといたのだ。


 こんな中、大陸の西の地方の今の村まで移住してきた父に、改めて俊是ジュンジェは感心した。


 俊是ジュンジェは、みのを着て目立たぬように旅をした。

 噴火した山の近くには、近付けない。

 山の近くには、有翼種アルゲイ族の巣があったようで、牙を持った爬虫類の目をしたアルゲイ族が、そこかしこにいた。


 俊是ジュンジェは、三日間同じ洞窟から動けなかった。

 そのうち雨が激しく降り出すと、魔族の気配が嘘のように消えたのだ。

 俊是ジュンジェは、この間に洞窟から、移動した。


 走って、川の近くを通り抜ける時に煙の出ている赤い石を発見した。


(紅輝石か?)


 俊是ジュンジェが思ったのは、幻の輝石の事だった。

 これを火の中に入れると高温になるのだ。

 彼は、迂闊にも素手で拾ってしまった。

 煙の出ている石をである。

 俊是ジュンジェは、直ぐに川の水でただれた右手を冷やした。

 それでも火傷は深くヒリヒリしていた。


(自業自得だ……仕方ない)


 これ以上冷やすのを止めて、持って来た布で、右手を巻いた。その上からもう煙の出ていなかった紅輝石をもう一つの布で包み荷物の中へ、放り込んだのだった。


 川は増水していたが、腰くらいまでの深さで、渡れないことは無い。

 しかし流れが速くなっていたので、慎重に渡っていた。川上の方から赤ん坊の泣き声がした。










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