マークウェル英雄譚《後世に名前を語り継がれなかった英雄の話》

月杜円香

第1昌 珂英の祖先

第1話  珂英(カイン)の祖先

みかどよ、これ以上の物は作れません」


の作る刀は、この国に蔓延はびこる鬼退治には欠かせぬものだ。今回献上した刀は、みな、見事なものである。だが、この技術を他の職人ににも伝えるのだ」


 帝の冷たい言葉に、黒髪の男はうなだれた


「帝よ、それは出来ませぬ。我らは隠れ里にて、を作っています。先祖伝来の秘術としてです」


「ふん、隠れ里か……見つけ出して痛い目に遭わせれば、言う事を聞くだろう。お前も言わねば、明日の正午には打ち首ぞ」


 鍛冶職人の里は、良質な鉄の採れる山の麓にあった。大きな大陸の東側にある掏国は、広い面積を持つ国ではない。四方をを海で囲まれた島国だ。

 帝の部隊で総力をあげて捜索されれば、簡単に見つけられてしまうだろう。

 男は、地下牢に入れられ、明日の日の出と共に首を切られることになった。


 真夜中、見張りの者も眠りについた頃、男のもとに、真っ黒な鳥がやってきた。

 この鳥は、夜目がきくようだ。


鷹平タカヒラ様、大丈夫か? 予定の日になっても帰ってこぬので、皆、心配していますぞ》


「鳥使いかの安平ヤスヒラか……帝に会えたのだが、わたしは明日殺されるのだ。そなたは、一刻も早く一族を連れてこの国を脱出するのだ。帝は、我らの技術をよそに漏らしたいらしい」


《我らの任は、影から陶国を支えることなのに?》


 黒い鳥は、怒りを露にしていた。


「良いから、安平、逃れろ!! 連れていける者だけを連れていけ」


 そう言うと、鷹平は隠し持っていた小刀を首にあて、思いきり力を込めた。


《タカヒラ!!》


 鳥使いの男は、全てを見ていた。

 里で一番の鍛冶職人で長だったのに。

 彼以上の鍛冶職人はいなかった。古くから伝わる伝統を受け継いだ実直な男だった。


「強い剣を作れ」

 そう命じたのは、この島国の帝からの命令であったのに。

 この頃、数が多くなってきた鬼に対抗するために、帝は鷹平たかひらの鍛冶職人の隠れ里を見つけ出して命令をしてきた。

 今の陶国では、これ以上の剣は出来ない。そう言って、百本の剣を治めたら、その技術を教えろ他へ伝授しろと言う。

 鳥使いから一族の長を失ったことを里の皆は知った。なんと言う横暴であろうか!! 隠れ里は代々の帝から許された土地にあったものを……。


 一族は、なんとか海に出て西にあるという大陸を目指した。


 海は荒れ、追っ手も来たが、風が彼らに味方した。


 難を逃れた彼らは、大人子供も併せて15人足らずだったという。


 半ば、座礁状態で大陸の東部に辿り着いた彼らは、鍛冶職人にであること身分を明かし、自慢の刀剣を持ってに謁見することになった。来破浪ライ・ポーラン将軍は、彼らの持ってきた切れの良い長剣を気に入り、召し抱えることにした。

 南部の山の中に刀剣鍛冶師の移民村を用意してやった。

 だが、彼らは知らなかった。

 掏国では、「鬼」という存在が大陸では、魔族という名で人間を蹂躙していたことを。


 

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