#004 ドロドロした昼ドラっぽい人間関係をゲームで見たいわけじゃない。

 武闘家を失った勇者は心の傷が中々癒えず、最初の街の宿屋で一週間ほど立ち往生していた。


「くっ……すまない、武闘家……」


 毎日のように涙を流しながら懺悔の言葉を繰り返す勇者。


「僕のせいだ……僕が、弱かったから……君を犠牲にして、無様に生き残ってしまった……」

「あなたのせいじゃないよ!」


 落ち込んだ勇者を必死に慰める魔法使い。


「元はと言えば、魔王が全部悪いんだから……そのせいで、私たちの家族もずっと苦しめられ続けてきた……」


 勇者と魔法使いは幼馴染であり、同郷である。

 

「なるほど、幼馴染系ヒロインというわけか」


 今回も勇者一行の様子をモニターで監視している魔王であった。


「二人だけの純愛系パーティーも悪くはない」

「いや、そもこんな恋愛っぽいシーンいりますか? というか、いつの間にか賢者がいなくなってますね……」


 さっきゅんの指摘通り、宿の部屋には勇者と魔法使いの二人だけがいた。


「だからって、僕ら二人だけで旅を続けるなんて無理だよ!」


 都合の良いタイミングで勇者が経緯を説明し始める。


「武闘家は僕が殺して、賢者は……『すいません定時なんで帰りますね、今後も旅のパートナーを希望する場合は追加料金を振り込んでください』と言ってパーティーから抜けてしまった!」


「定時ってなぁに?」


 モニター越しにさっきゅんがツッコム。


「もしかして賢者レンタルしてた? デリバリー賢者とか聞いたことないんだけど?」

「ある意味正しい、スッキリした後男は皆賢者になるというものだ」

「うまくねぇんだよ、黙ってろ魔王」


 そんなこんなで場面は再び勇者サイドへ移る。


「それでも……貴方は、伝説の剣に選ばれた勇者じゃない!」


 いえ、そもそも伝説の剣引き抜くのミスってへし折ってます。


「貴方と一緒なら……私たち二人だけでも、きっと魔王を倒せる!」


 いえ、最初のボスに苦戦していた時点でほぼ無理です。


「お願いだから、立ち上がって……勇者、私待ってるから……」


 これ以上の説得は無意味と判断したのか、魔法使いが勇者の部屋を出て自分の部屋に戻っていく。


「魔法使い……僕は、クソッ!」


 自身の非力さを噛み締めながら、体をワナワナと震わせる勇者。


「わかってる、わかってはいるんだ! 僕がこんな調子じゃ、魔王はいつまで経っても倒せないことくらい……」


 それでも、勇者には背負った使命がある。

 世界を救いたいという、強い意志がある。


「僕が立ち上がるしかない、やるしかないんだ……いや、絶対に……僕がこの手で魔王を倒し、世界を救ってみせる!」


 勇者の胸の内でみなぎる闘志。


「これは……一度は完膚なきまでに打ち砕かれた勇者の精神が、より鋭く磨かれて再び輝きを取り戻そうとしている……?」


 短時間での勇者の変化に呆気を取られるさっきゅん。


「荒削りではあるが、これで勇者の精神力は数段レベルアップした」


 全てを見透かしていたかのように余裕の笑みを浮かべる魔王。


「まさか、魔王様……」

「そのまさかだ」


 魔王は勇者が精神的に未熟なのを見抜いていた。

 

「この一連のイベントは全て、勇者の精神力を鍛えるために必要だった。伝説の剣を扱うには少々、基礎ステータスが足りなかったようなのでな」


 そして魔王の目論見通り、勇者は立ち上がる。


「な、なんだ……?」


 それと呼応するように光り輝く伝説の剣に驚く勇者。


「この俺が剣が破損したときの保険を用意していないとでも思ったか?」


 魔王が説明を始める。


「勇者のステータスがアップし、本来必要な技能に到達した瞬間に……あの剣は本来の力を解放するように作られていたのだ!」


「これは……全身に、力がみなぎってくる!」


 明らかにパワーアップした自身の変化に勇者も気づき始める。


「それと同時に、伝説の剣が再生を始めている!?」


 欠けた刃が修復されながら剣の形状が徐々に変化し、見るからにレベルアップした感じの派手な見た目の剣が勇者の手元に現れた。


「これが伝説の剣の本当の形! なんだか説明書的な物が頭の中に流れてくる感じがするぞ!」


 前々回説明した剣の能力が直接勇者の脳内に記憶される仕組みになっていたのだ。


「各種バフに、リスポーン機能……凄い! これなら本当に、僕たち二人で魔王を倒せるかもしれないぞ!」


 自信を取り戻した勇者が急いで魔法使いの部屋を訪れる。


「……うまくいきましたね」


 さっきゅんが安堵の言葉を漏らす。


「結果として武闘家の死が、勇者の成長を導いた……」

「全て俺が思い描いた通りの展開だ」

「いや貴方ほぼライブ感でこの展開書いてますよね?」


 魔王のセリフというか、もうほぼ作者の感想を呟いているのである。


「魔法使い!」


 バンと勢いよく扉を開ける勇者。

 そして中では──


「大丈夫だって〜、今日もあのヘタレ勇者は部屋から出てこらんないから〜」

「ったく魔法使い、お前も酷い女だよなぁ」


 ──魔法使いと知らない男が、ベッドの上で裸で抱き合っていた。


「男に宿賃払わせといて、自分は浮気三昧かよ」

「そんくらいしないとやってらんないってのぉ〜」

「ハハッ、確かにあのお子ちゃま勇者のお守りは大変そうだよなぁ」

「ほんっと迷惑してるのよね、幼馴染ってだけであんなブスと一緒に旅なんて……」


 ここで目の前の勇者の存在に気づく魔法使い。

 硬直する3人。


「いや、せっかく復活した勇者の精神へし折られたぁぁぁ!!!」


 モニターの先でさっきゅんのツッコミが炸裂する。


「立ち直った瞬間に、またとんでもねぇ場面に直面してるんだけど! 純愛どころか、ただのクソビッチだったんですけどあの魔法使い! こんな場面に遭遇して、勇者立ち直れるわけないだろぉぉぉ!!!」

「ほう、これがいわゆる寝取られというやつか。確かに側から見ていると、勃ち上がる勇気が湧いてくるかもしれない気がする」

「だからうまくねぇんだよ!」


 というやり取りをしている魔王たちの目の前で、


 ザシュ


 容赦無く勇者が男を伝説の剣で切り伏せた。


「ひぃ……!? ゆ、勇者……これは、その……」


 言い訳をしようとする魔法使いに、


 ザンッ


 無言で剣を振り下ろす勇者。


「安心してよ、二人とも」


 伝説の剣のパワーを解放する勇者。


「君たちは僕の大切なパーティーなんだから」


 勇者パーティーの仲間は無限にリスポーンすることができる。


「これで永遠に君たちを殺し続けられるね」


 悪魔の笑みを浮かべながら、勇者は再び剣を振りかぶった。


「いや、勇者……」


 勇者の鬼気迫る表情に恐怖すら覚えたさっきゅん。


「とんでもねぇ使い方で伝説の剣使いこなしてるんですけどぉぉぉ!!!」

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