#002 ラスボスを倒せる伝説の剣的なアレが何故か最序盤の街に突き刺さってる。

 魔王が真剣な面持ちで語り始める。


「まず俺が何故たった一人で人間の国々を脅かし、最強最悪の魔王と呼ばれるに至れたか……改めて説明してやろう」


 ざっくり言うとこんな感じである。

 

 魔王の攻撃力はめっちゃ高い。

 秒で世界を滅ぼせるレベルである。


 だがそれ以上に防御力もカッチカチなのだ。

 自分で自分を傷つけるだけでも、ハンパねー労力が必要になる。


 しかも体力まで激ヤバなくらい高いのだからタチが悪い。

 HPもMPも使った瞬間に全快するヤベー回復速度を持っているのだ。


「結論、誰にも俺を殺すことはできない無理ゲーだ」

「大気圏外に追放するってのはどうです?」

「試してみたが、結局他の星も滅ぼしてしまって無理だった」

「あ、やったことあるんだ」


 悪の帝王とか究極生命体とかをワンパンで葬ってきた魔王である。


「それじゃ尚更地球上で魔王様を殺せる方法なんて存在しないのでは?」


 さっきゅんの疑問に対し、ほくそ笑みながら魔王が返す。


「いや、一つだけ手はある。やはりと言ってはなんだが、俺を殺す鍵は俺自身にあった」

「まどろっこしいこと言ってないで、さっさと結論を言ってください」


 玉座を蹴りながら急かすさっきゅん。


「蹴るな、急かすな、そして足を踏むな」

「どんな方法でもお任せください、私が必ず魔王様を葬って差し上げますから」

「それ葬る相手に言うべき台詞じゃないよね?」

 

 さっきゅんが蹴りを辞めたタイミングを見計らって、魔王が説明を再開する。


「コホン……いいか、よく聞けさっきゅん。どっちにろお前に俺は殺せない、というか俺を殺すべき人間は既に選ばれている」

「私たち魔族より遥かに生物として劣る人間から、ですか?」

「そうだ……お前、こんな話を聞いたことはないか?」


 地面に刺さった伝説の剣を引き抜いた者が、伝説の勇者として魔王を討伐する。

 要するにアーサー王伝説とかドラクエとかでよく聞くアレである。


「それを俺が用意して人間界に置いてきた」

「いや別にそれで自分の腹を切りゃ良いんじゃないですかね?」

「それができないから困っているんだろうが……」


 魔力、あるいはオーラと呼ばれるエネルギーを自在に操る技術──魔術。

 

 魔王の魔力はほぼ無限とも言える程、莫大に溢れ出ている。

 これを使えばある程度のことはなんでもできるのだ、しかし。


「俺の魔術で直接俺を殺すことは不可能だった……しかしいくつかの条件をクリアすれば、俺を殺すことのできる道具を作り出すことができる」


 より達成が困難な条件を課せば、魔術の出力は爆発的に飛躍する。


「だから俺は大まかに三つの条件を剣に込めた」


 一つ目は、この剣を扱うに足る人間が産まれるまで待つことだ。

 それまでに魔王は十万年以上の歳月を有した。


「既に剣を振るうに足る素質を持った人間が剣を引き抜き、勇者として俺を殺しに向かっているらしい」


 二つ目は、魔王の元に辿り着くまでいくつもの苦難を乗り越えることである。

 その過程での身体的、精神的な成長を勇者に促す必要があるのだ。


「そのために我が魔王城に辿り着くまで、いくつもの難所を用意した。歯応えのあるダンジョンや、手強いモンスター……それらの試練を乗り越えるため、仲間たちと共に築いた絆☆パワーこそが第三の条件とでも言っておこうか」

「それで、勇者たちはいったい後どれくらいでここに着きそうなんですか? そもそも、ちゃんと生きたままいくつもの難所を突破できる保証はあるんでしょうね?」

「その点については問題ない」


 自信満々に答える魔王。


「他にもいくつか勇者をサポートする機能を剣に搭載しておいた」


 勇者とその仲間たちは、何度死のうとその場で蘇ることができるのだ。


「レベルも最初からマックスに設定しておいてある。セーブポイントも多めに設置してあるし、宿屋に泊まらずともHPMPが勝手に回復する仕様にもしておいたのだ。どうだ、魔王ってば優しいでしょ?」

「いやさっきからなんでこの世界の勇者、ドラクエ準拠の設定してるんですか」

「それはあれだ、ファンタジーあるあるというやつだ」


 というか、どうせ今回のカクヨムコンも似たような設定の作品しか投稿されないのである。


「失礼なこと言わないでください。もしかしたら、光り輝く原石みたいな作品も眠ってるかもしれないじゃないですか。こんな駄作と違って」

「駄作とか言わないの。ともかく、今勇者がどのあたりまで来てるか確認してみようよ」


 ステータスオープン、的なノリで勇者一行の映像が映ったモニターを具現化する魔王。


「あれ、勇者一行やられてません?」


 そこには傷つき倒れる勇者一行の姿が映っていた。


「まあ、中盤ぐらいにはそこそこ強いボスも配置してるし……」

「ちゅっちゅっちゅっちゅ……」


 ボスの笑い声がモニター越しに聞こえてくる。


「この程度で魔王様の命を狙う勇者一行を名乗るとは片腹痛いでちゅね!」


 モニターに映るのは巨大な獣の姿。

 魔王城への道中を守る第一のボスの姿である。


「このネズミ王チュー助様を倒さない限り、最初の街からは一歩も外に出させないでちゅよ!」

「いや勇者、最序盤の雑魚ボスに苦戦してるじゃねぇかぁぁぁ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る