死にたいけど誰にも殺してもらえない最強魔王様が、残り一万文字で勇者に殺して貰うためにもうめっちゃ頑張る話。

イルティ=ノア

#001 最強魔王様は優雅な日常を送りすぎて飽きたので転生したい。


 最初はただ欲しかった。


 しかし魔界は実力主義で、血なまぐさい。

 日々殺し合いが行われ、生き残った者だけが権力を握れた。


 そして両親を失い、一人ぼっちになった赤ん坊の俺。

 ……あ、もうこれ終わりじゃん死んだわ。


 最初はそう思ったが、意外と俺は強かった。


 まず普通の魔族とは比べ物にならない、圧倒的な魔力量。

 俺に近づいた時点で、並の魔族なら魔力に押しつぶされて消滅する。


 次に天性の才が、センスが俺にはあった。

 最適な身体、魔力のコントロールが手に取るように理解できる。


 そんな調子で俺が五歳の時には魔界最強の魔族になっていた。

 当時魔界を取り仕切っていた魔王もワンパンでぶっ飛ばした。


 気づいたら俺は次の魔王になっていた。

 これで魔界の全権を握ったも当然だ。


 そこからはもうめっちゃ好き放題に振る舞った。

 欲しいものはなんでも手に入った。

 

 財の限りを尽くした絢爛豪華な魔王城。

 毎日美味い飯を食らい、美味い酒を飲んで過ごした。


 魔界中の美女を城に集めてパーティーを開いたこともあったな……

 あなたならどうする……? 最高だった……


 でも魔王なら人類から目の敵にされてるんじゃない?

 勇者から命とか狙われたりしないの? 大丈夫?


 的な疑問を持つこともあるだろうが、全くもって問題ない。

 俺は強いから今まで何万もの勇者を葬ってきた。


 その度に報復として人間界を火の海に変えてやった。

 やがて俺は最強最悪の魔王様として人類から恐れられるようになっていた。


 もう邪魔な勇者が派遣されなくなって久しい。

 その間も俺は贅沢の限りを尽くしていた。


 そんな生活も今年でもう114514年目に突入する。

 というわけで俺には一つの新しい悩みが生まれていた。


「退屈というのは、思った以上に辛いものだな……」


 玉座にふんぞり返りながら、俺が呟く。


「美女も美酒も美飯も安室◯美恵も、同じ曲ばかり聴いていれば流石に飽きが来るというもの……」

「いやなんで安室◯美恵だけ個人名なんですか」


 ツッコミを入れるのは、側近のサキュバス──セクシー☆さっきゅんである。


「というかいい加減そのふざけた呼び方どうにかしてくれませんか? セクハラで訴えますよ?」

「どこに訴えるというのだ」


 余裕の笑みを浮かべながら魔王が続ける。


「この魔界において法とは俺そのものだ……俺の独裁者友達のデブは言っていた、『国家ぐるみの場合は犯罪にならんZOY☆』と」

「ならクーデターでも起こして、無理矢理その玉座から引きずり下ろして差し上げましょうか?」

「フンッできるものならやってみろ」


 鼻で笑う魔王。


「だそうです、みなさん入って来てくださーい」


 そう言ってさっきゅんは人間の国兵士を玉座の間に招き入れる。


「さっきゅん、これは?」

「魔王様の命を狙う人間の国の軍隊を丸々城内に引き入れてみました」

「何しれっと俺の知らないところで人間の手引きとかしてんの?」


 間抜けな顔でポカンとする魔王に向かって、


 ドガァァァン!!!


 早速とんでもねぇ威力の大砲が撃ち込まれてきた。


「はーい、どんどん続けてくださーい」


 さっきゅんの合図と共に凄まじい数の砲弾が玉座の間に撃ち込まれていく。


「くたばれ魔王ぉぉぉ!!!」


 人間の兵士が雄叫びを上げながら全ての砲弾をブッパし、爆炎の中で魔王がどうなったかさっきゅんが確認する。


「魔王様ー、やっとくたばりやがってくださいましたかー」

「………………フッ」


 そこに横たわるは頭がアフロになっただけで無傷の魔王。

 爆炎が晴れたと同時に、ニッと笑いながら魔王が立ち上がった。


「……この程度で本気で俺を殺せるとでも?」


 いや、妖艶な光を纏いながら魔王が宙に浮かび上がった。


「それが貴様らの全力か、人間……」


 魔王はその身に纏った光を、魔力を軍隊に向かって放った。

  

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 情けない声を上げながら吹っ飛ばされる兵士たち。


 それは特殊な技術など一切必要としない。

 ただ体から魔力を発するだけの行為。


 しかし耐性のない人間は、大量の魔力を浴びるだけで耐えられず自壊。

 身につけた道具も全て塵芥となってこの世から消滅した。


「つまらん、な」


 傷一つない玉座に再びふんぞり返り、髪をセットし直す魔王。


「さっきゅん、残りの兵士は?」

「残念ながら、怖気付いてみんな逃げてっちゃいました」


 ため息を吐きながら応答するさっきゅん。


「ただの人間……いえ、ほとんどの魔族でも魔王様に近づいた時点で消滅ですよ」

「おかげでここ数万年、対等にやり合える相手と巡り会えず退屈でしゃーないよ」

「まったく早く死んで、次の魔王の座を私に譲ってくださいコノヤロー」

「さっきからまったく敬意感じないんだけど? お前本当に俺の部下?」


 呆れ顔で魔王が続ける。


「まあ、一応俺を殺す方法を考えてはみたんだが……」

「なんですかそれ、早く教えてください。私が実行して差し上げますから」


 魔王はやや溜めを作って、ドヤ顔をキメてから、言った。


「詳しくは、そう……第二話で説明する」

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