07

 マルコラさん、マグラルド様のことを『マグくん』なんて呼ぶとは、不敬罪が怖くないのか……? と一瞬不安になったが、そういえばマグラルド様が王族であることをこの人は知らないのだった、と思い出す。


 というかむしろ、初対面で『マグラルド様』と呼んでしまう方のが問題だ。

 『マグラルド』という名前と、彼の顔を見ただけでシュダネラル王国の第三王子だとわかってしまう平民はまずいない。そんなことができてしまえば、確実に貴族の血が入っていると思われる。


 わたしは正真正銘、平民の生まれ。しかも、『ディアン』は仮の姿。ガチの王族である彼はきっと自国や周辺国の貴族の名前と顔を覚えているはず。そうなれば、該当しない名前と顔を持ちながら、貴族よろしくマグラルド様の正体を一発で見破る人間なんて怪しいことこの上ないはず。

 怪しまれて正体がばれるのも困るが、マグラルド様の命を狙っているなどと誤解もされたくない。


 わたしとマグラルド様は昨日初めて出会った。


 その設定を守るのならば、わたしが呼び名を気を付けないと……と思う反面、いや、それにしたって昨日の今日で『マグくん』は距離の詰め方がえげつない。そんなにすぐ、あだ名で呼んでいいものなのか?

 マルコラさん、そういうところあるけれど……。すぐに人をあだ名で呼ぶというか、よく言えば親しみやすくて、悪く言えば馴れ馴れしい性格をしている人だ。


 それとも、同性同士がなせる業? ザフィールもなんだかマグラルド様と仲よさそうに話しているし。女には分からない、男同士で何か感じるものがあるというのだろうか。

 もしそうだとするならば、男としてこの場にいる身としては、ここはむしろ、積極的に行かないと浮いてしまうだろうか? いや、でも、全員が全員、そういうノリとは限らないし……。


 そんなことを思いながらマグラルド様とザフィールが談笑している姿を眺めていると――ふと、目があった、気がした。

 マグラルド様がこちらを見るような気配を感じたので、全力で目をそらしたのだが少し遅れてしまったかもしれない。


 話しかけられはしなかったけれど、ひしひしと視線を感じる……ような気がする。もし、彼の方を見て、今度こそ目が合ってしまったら、わたしはどうしたらいいのだろう。


 気まずさに顔を上げられなくて、わたしはうつむきがちに、もそもそとパンを口に運んだ。すごくパサパサしているように感じるのは、単純にパンの質が悪いからなのか、それとも――緊張で、もとより口の中の水分が失われているからなのだろうか。


 どっちもかも、と思いながら、わたしは牛乳で無理やりパンを飲み込むのだった。

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