08

 わたしが食事を終える頃、目を輝かせてリリリュビさんが戻ってきた。手には依頼書がある。どうやら気に入る依頼を見つけられたらしい。


「これ受けてきた! ホルンシャフの討伐依頼! 場所はグリカーンの森のちょっと手前だね」


 手のひらサイズの紙を見せつけてくるリリリュビさん。

 ホルンシャフ。黄石(きせき)級という、下から三番目の冒険者ランクのパーティーがよく討伐依頼を受ける羊に似た魔物だ。逃げ出した家畜の羊が野生化し、途中で魔物と交配して出来上がった子孫がホルンシャフ、という説があるくらいには、羊とそっくりなのだ。

 黄石級の一つ上である橙石(だいせき)級であるわたしたちからしたら下のランクに思える依頼ではあるけれど、討伐依頼自体こなしたことが少ないので、ちょうどいいのかもしれない。


 普段のわたしたちといえば、敵が見えたらすぐに隠れるか逃げるのどちらかばかりなので、他の橙石級のパーティーが受けるような討伐依頼はちょっと早いだろう。他の橙石級は討伐依頼も普通に受けるから、魔物と正面からやりあう戦闘経験も豊富だろうし。


 初めての討伐依頼、ということで、張り切って背伸びした依頼を受けてこなくてよかった。リリリュビさん、思い切りが変にいいところあるからな……。


「ごはん終わったなら準備して行こ!」


 リリリュビさんは言いながら、依頼書を小さく畳んだ。そして、そのまま、首から下げた冒険者の証明タグにしまい込む。

 証明タグは細い筒状になっていて、あの中に依頼書を入れるのだが、手先が器用ではないわたしはよく入れられるな、と、つい、毎回リリリュビさんが依頼書をしまう姿を見てしまう。

 小指サイズの筒に手のひらサイズの紙を入れるなんて。わたしだったら絶対ぐしゃってなる。


「……討伐依頼に行くって言ってっけど、大丈夫か?」


 ぼーっとリリリュビさんの行動を見ていたら、ザフィールが心配そうに声をかけてくれた。


「大丈夫だよ。ただの寝不足。ちょっと寝つきが悪くて。……リリリュビさんほどじゃないけど、新しい種類の依頼が受けられるかも、って興奮してたのかも」


 眠れなかった理由に関しては完全に嘘だけれど、寝不足なだけで、病気とかではないのは本当。

 わたしの言葉を疑いもしないザフィールは、あっさりと嘘を信じた。


 性別を偽っている以上、たびたびパーティーメンバーには嘘をつかないといけないため、するっとごまかしが口からでるようにはなったけれど、こうもすぐに信用されると罪悪感がわいてくる。

 とはいえ、隠したいことをべらべらと話すわけにはいかないし、そのつもりもないので、わたしは心の中だけでザフィールに謝り、実際には、「心配してくれてありがと」と礼を言うだけにとどめておいた。

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