第2話 「ただいま」と「おかえり」


   ◇◆◇◆◇◆◇


 翌日。

 沢田から、新しい話を聞いた。

 帰宅した時の話である。


 「昨日の帰りにさ、アパートに帰ったときに、『ただいま』って言ったらどうなるのかなって思ったんだよ」

 「言ったのか? ただいまって」

 「ああ言ったよ」

 「どうなったんだ?」

 「奥の部屋から『おかえりなさい』って声が帰って来たよ。

 今度は、男の子の声だったな」

 「マジか……」 

 「一応、部屋に入って、クローゼットの中、外のベランダも確認したけど、誰もいなかったんだよなあ。

 ありゃ一体何なんだろうな」

 沢田は気楽な調子でそう言った。

 何なんだも何も、オレには心霊系の不気味な現象としか思えなかった。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 それから沢田は、朝は『いってきます』と言って家を出て、帰ってからは『ただいま』と言うようになったらしい。


 「返事は?」

 「あるよ。男の子の声のときもあれば、女性の声のときもある」

 オレの言葉に、沢田は面白そうに答えた。

 「お前さ、何かに取り憑かれてるんじゃないのか?

 お祓いに行った方がいいと思うぞ」

 「ん~~、まあ、害は無いしさ。

 それより、『いってきます』と『ただいま』を言うと、なんかこう、生活にメリハリがついて、調子が良いんだよなあ。

 一人暮らしの時は、無言で出勤して、無言で帰宅するだろ。それよりは、よっぽど健全な感じがするんだ」


 霊的な何かと挨拶を交わすことは、健全なのだろうか……。


 それから三日後、沢田が仕事を休んだ。

 午前中に席を外していた上司が戻ってくると、昨日の夜、沢田の住むアパートが火事になったと教えてくれた。


 アパートは全焼だったそうだ。


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