第15話
「ここへ来るのも久しぶりだ。ここはいつ来ても変わらないな」
秘密の場所。そこは八幡神社のあるこの山の頂上。
頂上と言っても、この山自体さほど高さのある山ではなく、一時間もあれば余裕で山頂に辿り着けるだろう。
だが、この山自体が村の守り神とされ、八幡神社より上は、神域とされている。ここまで登ってくる人間など滅多にいない。ここならきっと、奴にも見つからないだろう。
「はぁ~、やっぱりここは落ち着く」
人間の手が及ばないこの場所は静かで、空気も澄んでいる。
それに、緑が青々と生い茂るこの山では珍しく拓かれた場所だ。一本だけ凛と聳え立つ桜の大木があるが、それ以外は何もない。頂上でありながら草木と言った視界を邪魔するものはなく、拓かれた場所であるが故に見晴らしは良い。
その絶景を、その桜の大木に登り、眺めながらのんびり過ごす。それが、ほんの数日前までの俺の日常だった。
あ~、久しぶりに一人で過ごす時間。この穏やかな時間がこれ程までに贅沢なものだったとは。
俺は初めて知った。
鳥の囀りを聞きながら、風に流れゆく雲や、村に広がる田んぼを眺める。
そよそよと、肌に心地好い風を感じながら、俺は夢の中へと誘われてい――
「?」
本当に奴は来ないのか?
邪魔者がいないと言うのは良い事だ。
だが、こうも簡単に奴から逃れる事に成功してしまうと、それはそれで何だか調子が狂うような?
と言うか、逆に気になって眠れない。
「……って、何考えているんだ俺は。これじゃまるで、この至福のひと時を、あいつに潰される事を待っているみたいじゃないか」
「おや、久しぶりに一人の時間を満喫させてあげようと思ったのですが、やはりあなたは邪魔される事を望むのですね。相変わらずのマゾ属性」
「俺はマゾじゃね~!! って、うわぁ~師匠?! どうしてここに? ここは俺だけの秘密の場所。誰にも教えてないはずなのに。どうして居場所がバレたんだ」
「あなたの居場所くらい、気を探せば分かりますよ。何せ私は神なのですから」
「……」
無念だ。師匠に見つかってしまった。今日は観念するしかないか。
なんと短い逃亡劇。
次身を隠す時は、師匠にも気をつけなければ。と、自分でも不思議な程、案外あっさり俺は観念した。
「で? あいつに何か言われて来たのか?」
「葵葉さんですか? いいえ。葵葉さんなら、今日はまだ来ていませんよ」
「……え?」
来てない?
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