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第5話

「神耶、起きなさい、神耶! いつまで寝ているつもりです、あなたは」



「るっせぇな。いつまでだって俺の勝手だろ。俺の眠りを邪魔すんな」




あの後、いつの間にか眠ってしまったらしい俺は、不機嫌な声でそう返す。


すると師匠は、急に俺の胸倉を掴んで、両の頬を左右に平手で殴り始めた。



「痛っ、いててて……何すんだよ!? 人が気持ち良く寝てりゃ、ビシバシ顔殴りやがって。ってか何であんた、まだここにいんだよ。早く京都へ帰れよ」



赤く腫れているだろう両頬を師匠から守るように手で抑えつつ、少し涙の浮かんだ目で俺は師匠に訴えた。そうして返って来た言葉は



「あなたを監視するためです!」




監視って……この人にとって俺は猛獣か何か?




「そんな事より、外をご覧なさい。お客様がみえていますよ」




そう言って師匠は社の扉をゆっくりと開いた。



「客?」




だが、扉が開け放たれた先に人影などどこにも見えなくて



「何言ってんだよ。誰もいないじゃん。声だって別に聞こえてねぇし」



そう零しながら俺は、寝ていた体を起こして渋々師匠の元へと足を進める。

すると、低い位置にあった俺の視界では見えるはずもなくて、鳥居から社へと続く石畳の上に、人が倒れていたのだ。



「おい、何が客だよ。倒れてんじゃねぇか!」




俺は倒れている人間の元へ急いで駆け寄った。




「え? 眠っているのではないのですか?」



「アホか、あんた! んなわけないだろ! どこをどう見ればこれが寝てるように見えんだよ!」



俺は馬鹿な師匠を怒鳴りつけながら、倒れている人間を抱き上げる。と、あまりの軽さに驚いた。



よく見れば腕や足はごぼうのように細く、体も小さい。幼さの残る顔つきから中学生――いや、小学生にも見える少年だった。


どうしてこんな子供が、一人でこんな所に倒れているのか。考えだしたらキリがない程に疑問が湧いたが、とにかく今は何とかしなければ。


俺は急いで社へと運び込み、仰向きに寝かせた。




「ったく、何なんだよこのガキは。あんな所に倒れやがって。俺は人間の看病の仕方なんて知らねぇぞ」




ぶつぶつ文句を言いながらも、息をしている事を確認したり、額に浮かぶ汗を拭いてやったりしていると




「そのわりにテキパキとこなしているように見えますが?」



俺の溢した愚痴をクスクスと笑いながら師匠につっこまれる。



「う、うるせぇ、笑うな! そんな無駄口たたいてる暇があるならあんた水汲んできてくれよ!」




恥ずかしさに顔を真っ赤に染めながら、俺は師匠にそう怒鳴った。

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