第3話

穏やかな口調、穏やかな笑みを浮かべながら何事もなかったかのようにそう声を掛けてくるこの人は、俺が任されているこの神社、八幡神社のご祭神である八幡神その人で、俺が神見習いの時から独り立ちするまで、俺を育て上げてくれた俺の師匠。




「ったく、いつもいつも変な登場の仕方しやがって。やめてくれって言ってるだろ」



「だって神耶の反応が面白いから、つい」



「つい、じゃねぇ! 俺で遊ぶな!」



「あら、貴方だって先程お参りに来てくれた人間で遊んでいたじゃないですか」



「うぐっ……」




揚げ足をとられて絶句する。これだから師匠には敵わない。

仕方なくこみ上げて来る怒りを沈めて、俺は話題を他に反らす事にした。

精一杯の皮肉を込めて。




「で? 何しに来た? あんたみたいな有名どころの神様が、こんな田舎のボロ神社で油うってていいのかよ?」


「いいんです。仕事は神見習いの私の弟子達に任せて来ましたから」



「けっ。またそれか。見習いなんかに任せっぱなしで、んな事ばっかやってっと、あんたのせいで八幡神社全体の評判が落ちるぜ」




因みに、八幡神社とは全国に二万社ものやしろを有し、武運の神として奈良時代、平安時代から信仰されて来た神社の一つ。日本でも馴染みの深い神社だ。


ま、科学が発達した今となっては、八幡神社だの稲荷神社だの、神社の種類や祭神を気にして参拝しにくる人間も少ないだろが。



そもそも、八幡神社がどうなろうが俺の知ったことでもないか。

そう俺が続けようとすると、不意に師匠に言葉を遮られた。




「あら、珍しい。私の事を心配してくれるのですか。ですがその言葉、そっくり貴方にお返ししますよ」



「……そりゃ、どうも」



これはまさに、説教が始まりそえな怪しい雲行きに、俺は先手を打つべく社に戻ると、師匠に背を向け寝転る。

長くなるであろう説教に備える為に。

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