第61話 無駄なく風のように?
「……クソが」
模擬戦は十秒もかからず終了した。
「そこまで! 勝者はユウゴ!」
当然、ユウゴはギルの首に剣先を突き付けて勝利した。
少し前までは身体能力にそこまで大きな差はなかったが、盗賊団との戦いで一番敵を殺したのはユウゴ。
旨味が大きい盗賊団の頭であるブランを倒したのもユウゴだった。
そのお陰でレベルが上がり、現在のレベルは十九。
ギルのレベルを完全に上回り、身体能力もそれなりにアップした。
盗賊団戦での疾風で敵を斬り裂きながら、魔法を発動して仲間のサポートまで行う。
この頭がパンク寸前まで追い込まれた作業も中々為になり、判断速度の向上にも繋がった。
大体それらの理由が要因になり、ユウゴがギルに武器を使った勝負という縛りでも圧勝した。
「ギル、文句はねぇだろ。お前の注文通り、ユウゴは武器だけで戦ったぞ」
「……分かってるよ」
自身の体が一瞬だけ動かなくなる。
もしくは完全に動かなくなる、なんて感覚はなく……単純に力やスピード、判断力で負けたのだと思い知らされる一戦だった。
最後に握手……なんてことはなく、ギルは借り物を返したら直ぐに訓練場から去って行った。
「ったく、あのバカ……すまねぇな、ユウゴ」
「別に気にしてないよ。いちゃもん付けられたら、そりゃ俺も怒るかもしれないけど……事実を受け入れてるわけだしね」
ユウゴとしては、ギルの態度にそこまで怒りの感情は湧かない。
(同じ同年代、冒険者になったばかりの奴が、既に自分よりタイマン勝負で強くなってる。普通に考えれば暴言の一つでも吐きたいだろうけど、それを吐かなかった。それだけで立派だと思う)
ギルの性格を考えれば、そういった少々理不尽な不満が爆発してもおかしくなかったが、ここで不満が爆発しなかったのは……ヒルデやアルから見ても、成長したように思える。
「そう言ってくれると嬉しいぜ…………なぁ、まだ暇なら今度は俺と模擬戦してくれないか」
ギルとの一戦を見て、自分では敵わないと解ってはいるが、それでも一度ユウゴと戦ってみたくなった。
「それが終わったら、僕とも模擬戦してくれないかい」
「良いけど、急に元気だな」
ハンナも接近戦で戦うスタイルということもあり、ユウゴに一戦申し込む。
(ウルさんは蔚山で先輩たちと模擬戦してるみたいだし、丁度良い時間までヒルデたちの相手をするのもありか)
ユウゴは先程の一戦とは違い、良い具合の模擬戦になるように、なるべく一分ぐらい時間を掛けてヒルデたちとの模擬戦を続けた。
ヒルデやアルたちは持てる力を全力で使い、ユウゴに勝とうとするが……ユウゴは上手く攻守を繰り返しながら戦い、その中で受け流しの技術を磨いていた。
戦力的にも体力的にもユウゴの方が余裕があり、ヒルデ、アル、ハンナをぐるぐると十週ぐらいしてから、ようやくユウゴもスタミナが切れてきた。
「ふぅーーーー、さすがにちょっと休憩させてくれ」
「お、おう。てか……スキルだけじゃなくて、スタミナもヤバいな」
「だね。合計……三十回ぐらい? 連続で模擬戦して、ようやく息切れって……本当に凄過ぎるよ」
ヒルデたちは自分が負ければ、大体二分ほどの休憩時間がある。
そこで息が整うので、現在もハンナ以外のメンバーはある程度息が整っている。
「ふむ……私の見解ですが、ユウゴさんの動きには余裕がある様に思えます」
「そりゃ俺たちより強いんだから、余裕はあって当然じゃないか?」
「その部分は否定出来ませんが、もっとこう……そうですね、無駄なく動いている様に思えます」
ヒルデたちの模擬戦をじっくり観察していたテオドールは、何故ユウゴが三十分も余裕で戦い続けることが出来たのか、その確信を見抜いていた。
「わ、私もテオドールさんと同じ意見です。アルたちの動きは直線的というか、激しいというか……でも、ユウゴさんの動きはそれらを風のように受け流している感じでした」
エミリアもただ観ていただけではなく、少しでも自分の経験に活かそうと必死に観察し、そういった結論に至った。
「受け流す……そういえば、何度か剣がぶつかった時に体勢を崩されたというか……それもユウゴが余裕な要員の一つなのか?」
「それはちょっと違うかな。あれはまだまだ練習中の技術の一つだよ。ただ、少し前までと比べて、相手の動きが良く見えるようになったと思う。そこは二人が言う無駄なく受け流す? 的な部分に繋がってるかもしれないな」
自分でも詳しいことはあまり解らない。
ただ、チートスキルを使わずとも、以前より余裕を持って戦える様になっていたのは事実。
(でも、ヒルデたちより強い人、モンスターが相手だと……うん、チートスキルを使わないと勝てないだろうな)
同じ十五、六歳の相手には余裕を持って勝てるようになったと思ったが、まだまだ格上の人たちを相手にチートスキル抜きでも勝てる……なんて自信過剰にはなれない。
少し離れた場所で自分たちと同じく模擬戦を行っているウルを見ると、改めて自分はまだまだだなと感じたユウゴだった。
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