第58話 実は結構パンパンだった

「いや~~、にしても全員見事にゲロったな」


「「「「「「……」」」」」」


埋葬が終わり、溜め込んでいたお宝の回収も終了。

これで昇格試験がほぼ終わった。


ようやく帰ろうとした時、ポロっとバルトがそんな言葉を零した。


特に他意があった訳ではない。

なんとなく思ったことは口にしただけ。


しかし、その言葉でユウゴが以外のメンバー全員が大なり小なり落ち込んだ。


「ん? おいおい、どうしたんだよ? 別にゲロ吐くのなんて珍しくねぇぜ。なぁ、ユウゴ」


「まぁ、今回は普通に仕方ない流れだったと思います」


ユウゴとしては、モンスターの死体を見て吐き、人を殺したらその時はその時でまた吐くだろうと思ってた。


(そりゃ、体の中身は結局入ってる物はそんなに変わらないかもしれないけど、こう……やっぱり同じ人間として、くるものがあるからな)


なんて事を考えていたので、あそこで我慢できずに吐いてしまったのは仕方ないと割り切っている。


「だよな……まっ、大方一度乗り越えた壁にもう一度躓いたって感覚が嫌なんだろ、男性陣」


「ッ!! ちっ!」


「ま、まぁ……そうっすね」


「……残念ながら、その通りですね」


「はは、バレてましたか」


初めて人を殺した時、気分が悪くなる。

もしくは、今回のユウゴたちみたいに我慢できず、がっつり吐いてしまう。


そんな話を今日の昇格試験を受けるまで、何度も耳にした。


しかし……他のルーキーたちよりも順調に進んでいるヒルデたちは「俺は他の連中とは違う。盗賊を殺しても、気持ち悪さや吐き気なんて振り切ってやる」といった、かなり強気なメンタル、心を持っていた。


ただ……ユウゴが一言口に出してしまったこともあり、もれなく全員「オロロロロ」と吐くことになった。


「でも、ユウゴ君の切り替えは凄かったというか、早かったというか……それと、やっぱり接近戦での戦いは上手かったよ。色々と助けられたしね」


「ウルさんに吐くのは仕方ないにしても、直ぐに切り替えろ……的なことを教えられてたからな」


オロロロ~~、の話は男性陣の部分だけ触れて……女性陣の細かい心情などには触れず、話のネタが少し変わった。


ハンナとエミリアもそれなりに覚悟はしていた。

戦闘中に吐いてしまうという行為は、敵に隙を見せることになる。


結局は敵の目前で吐くことはなかったが、精神的に耐え切れず乙女らしからぬ勢いで吐いてしまった。

加えて、二人も冒険者という職業に就いてはいるが……女性であり、まだまだ乙女なのだ。


なのに、パーティーのリーダーに……気になっている人の前で吐いてしまった。

それは二人にとって最悪の出来事、と言えなくもなかった。


「まっ、これから酒を飲めばいくらでも吐く機会はあるし、今回の件で落ち込むことはねぇぞ!」


「うっす」


「そうっすね……酒で吐く機会はいくらでもありそうだ」


そう言うことじゃないんだよ、とツッコみたい者が多かったが、もう終わったことなので誰もツッコまなかった。


「にしても、ユウゴ。一回何人も一度にぶっ殺してからは、立て続けに殺れたじゃねぇか。ロングソードの扱いも悪くなかったしな」


「……レベルはそこまで変わらなかったんで、この疾風のお陰で早く動けてたんで、手下たちは割とサクッとやれたと思います」


「それもあっただろうけど、あんだけ動きながらバンバン魔法陣展開して命中させてたのもすげぇよ。ユウゴ、お前技術だけなら既に一級品じゃねぇか?」


「マジですか? Bランクの人に褒められると、さすがに嬉しいというか照れるというか……まっ、油断せずにこれからも頑張りますよ」


油断せずにこれからも頑張る。

そんなセリフを普段と変わらない表情で口にするユウゴに、表情にこそ出していないが……アルは嫉妬した。


(あれは僕が理想とする魔剣士だった……いや、ユウゴ君の場合盗賊の相手をしながら、僕たちが戦いやすいように、サポートしてくれていた)


疾風で斬り捨て、攻撃魔法で牽制。

そしてサイキックを使い、ヒルデたちをサポート。


ほぼ同時に三つのことを行いながら戦っており……基本的に常人が為せる技ではなかった。


とはいえ、ユウゴは口に出してはいないが……頭は結構パンク寸前だった。

アドレナリンがどばどば状態だったからか、壊れることはなかった。

しかし、個人的には頭から煙が出てたのでは? と思うほどかなりギリギリだった。


バルトはお世辞で褒めておらず、周りもユウゴの技術に嫉妬……感心する者が多い。

ただ、今回は当たり前だが圧倒的に倒す敵の数が多かった。


故に視界に映る敵をどう倒すか、どの魔法を使うかや、誰をサイキックで援護するか。

判断すべきことが多く、パンク寸前だったので、ユウゴ的にはこれからも油断せずに頑張らなければならなかった。


「とりあえず、街に戻るまでが依頼だ。モンスターの襲撃には変わらず気を付けろよ」


バルトの注意に返事を入れ、気合を入れ直して一同はアルゴンブルグへと向かった。


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