第57話 思い出し吐き
「はぁ~~~、終わった……みたいだな」
周囲を見渡すと、既に他の盗賊たちも全滅。
見事、試験監督であるバルトの力を借りずに倒すことに成功した。
「すげぇ! すげぇぜユウゴ!!!!」
「うぉ!? へっへっへ、まぁなんとかやれたよ。ところで……お前ら、もう気持ち悪さは大丈夫なのか」
「……すまん」
ユウゴの一言で色々と思い出したヒルデたちは、もれなく全員突っ伏して吐き、水で口をゆすいでなんとか復活した。
「よし、それじゃあ死体を埋めてくか」
「待った。ユウゴ、お前は盗賊たちが溜め込んでいたお宝の回収に行ってもらっても良いか」
「……あぁ~、なるほど。分かりました」
大容量のアイテムボックスを持ってるのはユウゴだけなので、回収係はユウゴが行うのが適任だった。
「そういえば、ヒルデ。これ、お前が使ったらどうだ?」
「それは、盗賊の頭が使ってた大剣か」
「身体強化と腕力強化の効果が付与されてたし、この中で大剣を使うのはヒルデしかいないし、ヒルデが使っても良いんじゃないか?」
ギルやテオドールだけではなく、アルたちも文句なしの表情なこともあり、ヒルデは有難くその場で戦利品である大剣を貰った。
「お前ら、その盗賊の死体だけは埋めるなよ。持って帰れば懸賞金が貰えるからな」
というわけで、そのブランの死体をアイテムボックスに放り込んでから、盗賊たちが溜め込んでいた物を回収。
エミリアと一緒に盗賊たちが商人や冒険者たちを襲い、溜め込んでいた場所まで向かうと、その部屋には多くの物が溜まりに溜まっていた。
「……なんで、テーブルとか椅子、タンスまであるんだ?」
「えっと……盗賊は、裏でもよろしくない商人と繋がっていることがあります」
「つまり、その悪徳商人と色々物々交換をしてたかもしれないってことか」
「そういうことになるかと」
二人の考えは見事的中しており、ブランが率いる盗賊団はとある商人と繋がっていた。
(悪い商人がいるもんだ……でも、ヤ〇ザと芸能人、会社が繋がってるのと似た様な関係か)
正義感のある者であれば、その商人を懲らしめよう!!!
なんて事を考えるかもしれないが、ユウゴにそんな正義感はなかった。
(いずれ誰かが罰を与えるだろ)
適当な事を考えながら、アイテムボックスの中にどんどん溜め込まれていた家具や酒、武器に服などを入れていった。
「ッ…………ま、まだ大丈夫なんですか?」
「あぁ、多分全部入るよ」
奪った物を溜め込む部屋には、それなりの物量があったが……全てユウゴのアイテムボックスにすっぽりと収まった。
「よし、戻るか」
「は、はい」
一緒に昇格試験を受けることになり、アルゴンブルグを出てから何度も驚かされてきたが、エミリアは最後の最後まで驚かされっぱなしだった。
「おっ、戻ってきたか。どうだ、盗賊たちが溜め込んでた物は回収できたか?」
「バッチリ全部回収出来ました」
「はっはっは! 流石だぜ。そういえばユウゴ、最後のあれはどうやったんだ」
「最後のあれ……ウィンドボールでブランに止めを刺したあれですか?」
「そう、それだ」
バルトは後ろからハッキリと見ていた。
見間違いでなければ、ウィンドボールは一度ブランに避けられた。
だが、途中で軌道を変え……ブランが対応する前に心臓を貫いた。
「どうやったと言われても……魔力操作、としか言えませんね」
オートエイムというスキルを使い、更にはトラッキングの効果まで付与した……とは言わなかった。
ただ、魔力操作という説明だけでもバルトを納得することは可能だった。
「マジかよ……いや、でもユウゴなら無理じゃないか? でも相当操作技術がいるよな」
一度撃った魔法の軌道を変えるのは難しく、ユウゴの場合はウィンドボールが直角に曲がった。
緩やかに軌道を変えるのならまだしも、直角に軌道を変えることなどできないテオドールとエミリアはユウゴに対し、尊敬の念を抱いた。
だが、全員一仕事を終えてゆったりとしている中……相変わらず、一人だけ不機嫌そうな顔をしている男がいた。
(……なんであの剣で止めを刺さなかったんだよ。卑怯じみた攻撃をしなくても、あの剣で勝てただろ)
卑怯じみた攻撃が悪だと思っていない。
だが、明らかに上等な剣……魔剣と呼べる武器を持っているなら、それで倒せるだろ!! と、思ってしまった。
実際にユウゴとブランの攻防を見て、スキル云々の前に戦いの技術は自分より上だと認めざるを得なかった。
「……ふん」
ただ、ここで自分の考えをユウゴにぶつけたところで、またヒルデに止められてテオドールの言葉にブスブスと刺されてしまう流れになってしまうと解っているので、その思いは胸の中に秘めた。
そして改めて、自分は自分のスタイルを……道を行くと決めた。
(どうやら、少しは成長したみたいだな)
バルトは多くの感情や想いが胸の中にありながらも、それをユウゴにぶつけなかったギルの成長を、少し嬉しく思った。
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