第56話 最後まで我慢

「野郎ども! 今のうちにやっちまえ!!!!」


「「「「「「うぉおおおおおおっ!!!!」」」」」」


盗賊の頭が部下たちに発破をかけ、いきなり仲間が殺された硬直から解き放った。


しかし一度がっつり吐いてスッキリしたユウゴは既に吹っ切れており、疾風に風の魔力を纏わせながら前衛として動き始めた。


「俺たちも行くぞ!!!!」


ヒルデの声に動かされ、アルたちも前に出て戦い始める。


対人戦ではややヒルデたちの方が慣れており、ユウゴが初っ端で数を減らしてお陰で、割と苦戦はしない……と感じる面々だが、当然人を殺すのは初めて。


テオドール、エミリア、ユウゴと同じく中々言葉では言い表しにくい不快感が襲って来る。


しかし、接近戦を行っている最中に吐いてしまっては、絶対に殺されてしまう。

だからこそ耐えに耐え、何とか戦闘を続行。


それに……頼れる味方からの支援もあり、非常に戦いやすい。


(ユウゴの奴……やっぱりすげぇな)


ユウゴに降りかかる返り血など気にせず、ばっさばっさと強化系のスキルを使いながら敵を斬り裂きつつ……ヒルデたちが戦っている相手の動きはほんの少しではあるが、サイキックで止めていた。


死合ではその一瞬が大きな隙となり、そこまでレベル差がない者同士の戦いであれば、そこを突かれてあっさりと殺されてしまう。


(ユウゴがいるから俺の手助けは必要ないと思っていたが、本当に必要なさそうだな)


一応後ろから魔法を発動しながら攻撃しているテオドールとエミリアの護衛としてたっているが、誰もユウゴたち前衛を抜けて後ろまで辿り着けない。


偶に弓や攻撃魔法を使って二人を狙おうとする輩もいるが、ユウゴがボールやアロー系の攻撃魔法にオートエイムを使って仕留めている為、それらの攻撃が二人に届くことはない。


数的には盗賊団の方が圧倒的に有利だったにもかかわらず、どんどん数を減らされていく現状に頭であるブランは焦りを感じ始め……一つ舌打ちをし、戦いが始まってから初めて前に出た。


「好き勝手やってんじゃねぇぞ!!!」


「ッ!!??」


既にユウゴが疾風で多くの盗賊を斬り裂き、ヒルデたちもユウゴの援護を受けながら徐々に数を減らし……四十程以上いた盗賊の数は既に十を切っていた。


(こいつ……力は断然、俺より強いな!!!)


鑑定を使ってブランのステータスを視た結果、レベルは二十一。

現在のユウゴのレベルは十六であり、体格による差を考えても身体能力で……特に腕力で負けているのは明らかだった。


加えて、ブランが装備している大剣には身体強化、腕力強化のスキルが付与されている。


ユウゴは初撃で押されながらも、なんとか吹き飛ばされずに留まることに成功。


「なにッ!!!???」


腕力で押し切れなかったことに苛立ち、顔が真っ赤に燃え上がる。


(ハゲで顔が真っ赤になったら……本当にトマトだな)


なんて今はどうでも良いことを考えていたユウゴ。


だが、決して頭がくるくるぱーになってしまった訳ではない。

確かにブランの初撃には驚かされたが、普段模擬戦を行っているウルの腕力はそれよりも遥か上。


それを思い出すと……不思議とブランに対して恐怖は感じない。


(腕力で勝てないなら、脚力と魔法、技術で勝てばいい)


まだまだ完全に習得はしていないが、剣を使った相手の攻撃の受け流し。

そんな技術を盗賊が覚えている訳もなく、ブランの体は思いっきり流され、ユウゴの左脚キックが炸裂。


吹っ飛びはしたが、途中で着地に成功。

しかし防御力もユウゴより高いとはいえ、決してダメージがゼロではない。


「このクソガキがっ!!!!」


怒りに身を任せて大剣を振り回すブランだが、ユウゴからすれば非常に読みやすい太刀筋。


いくら斬撃の速度が早くとも、軌道が読めれば躱すことはそこまで難しくない。

そして圧倒的な速さで攻撃魔法を発動し、ブランを徐々に追い詰めながら疾風で一閃。


敵も短気だが決して無力ではなく、あっさり体が両断されることはないが、それでも体から徐々に血が流れ始める。


超高速で魔法陣を展開し、放たれる攻撃魔法も狙う場所は頭部、目、心臓、股間など、さすがに防御力が高くても喰らったらヤバい場所ばかり。


オートエイムで狙いを完全に定めているので、ブランはそれらを無視出来ない。


「クソがぁぁああああッ!!!!! 嘗めんじゃねぇええええええ!!!!」


大剣に残っている全ての魔力を込め、後先考えずに放つ重鈍な斬撃。

食らえば、ユウゴの防御力では心伴い。


しかしユウゴは自身の背中に大きめのウィンドボールを隠しており、ブランの意識が完全に攻撃にしか向いてない瞬間を狙って撃った。


「ぬおっ!!!」


本当に寸でのところでユウゴの背中から現れ、横から飛んできたウィンドボールを後ろに無理矢理跳んで回避。


ブランはしてやったりと思い、ニヤリと笑うが……ウィンドボールにはオートエイムが……トラッキングの効果が付与されている。


ウィンドボールはそのままブランの心臓目掛けて軌道を変え、ブランが慌てるがもうどうすることも出来ず……心臓を貫かれた。


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