第55話 仕方ない、仕方ない
そして翌日、ようやく盗賊団のアジトがある場所まで到着。
「見張りは二人。あそこ以外に入り口がないわ」
「ありがとう、ハンナ。それじゃあ、まずはあの二人は倒さないとだね」
「……テオドール、エミリア。俺が見張りの動きを止めるから、その間に撃ってくれ」
こういう時こそ働くべきだと思い、自ら進言。
「分かりました」
「や、やります!!」
「頼んだ」
「ユウゴ、かなり距離が離れてるけどダイジョブなのか?」
見張との距離は約数十メートル離れている。
道中でユウゴがサイキックを使う場面は何度も見たが、それでも使用した相手との距離は大体十メートルも離れていなかった。
「完全に油断してるし、動いてないから問題無い。それじゃ……やるぞ」
既にテオドールとエミリアは攻撃魔法の魔法陣を展開しており、準備万端。
「ほつ!」
よ~く狙ってユウゴがサイキックで見張りの動きを完全に止め、二人がどうにか自分たちに起こった身の危機を誰かに伝えようとする前に……テオドールのロックアローと、エミリアのウォーターアローが見張りの頭部に命中し、絶命。
「ナイス狙撃だ」
アロー系の攻撃魔法を選んだことで、的確に頭部に命中。
そして威力がそこまで高くないこともあり、頭部を貫いて音を立てることもなかった。
「いやはや、マジで羨ましいスキルだぜ。モンスターの中には察知系のスキルとか関係なしに警戒心が高いやつがいるからな」
「そういう個体もいるんですね。それなら、確かに俺のスキルはそういったモンスターに対して優位に動けますね」
二人の会話で良い意味で緊張感が少し緩み、メンバーはある程度リラックスした状態でアジトの中に突入できた。
「さて……頑張らないとな」
ここからが本気だ。
とでも言いたげな表情でウルに買ってもらったロングソード……疾風を抜き、意識を高める。
(……ちっ! やっぱり良い武器を持ってるじゃねぇか)
ここに来るまでも変わらず、ギルは積極的に前に出て評価を得ようとしないユウゴのスタイルに苛立っていた。
ギルは鑑定のスキルこそ持っていないが、意外と武器の目利きには優れている。
なので、ユウゴが帯剣している武器が、なんとなく自分では買えないような一品だと理解していることもあり……より苛立ちの感情が強くなっていた。
だが、今歩いている場所が何処なのかは理解しており、直ぐにその感情を抑えた。
「ふぅ~~~、見張りとか怠いな~~……てか、そろそろ女抱きてぇぜ……あん?」
全員足音はなるべく消していた。
移動速度も早過ぎず遅すぎず。
だが、完全に存在感を消すのは斥候であるハンナでも出来ず。チートスキルを大量に持っているユウゴでも今は無理な芸当。
なので……必然的に戦闘になるのだが、殆ど明かりがない場所でもユウゴが的確にサイキックで動きを止めた。
そしてその意図をくみ取り、テオドールが再びロックアローで仕留めた。
「うっ!」
ここでテオドールに限界が訪れ、その場で吐いてしまった。
それに釣られ、先程一緒に見張りを殺したエミリアにも限界が来た。
(っ!!?? こ、ここで吐かれたら……だ、大丈夫か? 酔っ払いが吐いただけって追われてるのか?)
大広間まで、もう遠くない。
二人の吐く音が聞こえなくもない距離……だが、大勢の気配がこちらに近づいてくることはなかった。
(というか、俺もちょっとヤバいな……もう無理だと思ったら、思いっきり吐いてしまおう)
変に溜め込むより、吐いてスッキリしてしまった方が良い。
改めて胸に刻み、いざ盗賊たちが集まっている大広間へ侵入。
すると……確かに大勢の見るからに盗賊な風貌をした野郎が大量にいた。
だが、既に全員が武器を持って構えていた。
(ば、バレてたか~~~)
この盗賊団の中には、女性が一人もいない。
全員が野郎なので、例え吐いている時の声でも異変を感じ取ることが出来た。
状況的には、やや盗賊たちの方が有利……と思われるかもしれないが、ユウゴにはそんな戦況を一気にひっくり返す術がある。
「はっ!!!!」
盗賊たちがユウゴたちに襲い掛かる前に、多数の魔力弾を生み出し、そこからサイキックとオートエイムを同時発動。
「なっ!?」
「うっ……」
「なんだ、これ」
「おわっ!!??」
状況的にはこちらが先手を取った。
ヒルデたちすら少し不味いと思っていた状況を……チートスキルの同時発動で見事にひっくり返したユウゴ。
それなりにヘッドショットを決め、開幕発射で四分の一は沈めることに成功した。
その衝撃は大きく、盗賊たちを怯ませることが出来た。
ただ…………当然というか仕方ない現象が起きた。
「オロロロロローーーー」
初めて人を殺したという実感、感覚に負け……ドバっと昼に食べた物を吐いた。
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