第54話 女性バージョンもいる?

夕方は道中で襲ってきたオークの肉をメインにした料理を食べ、全員食欲が満たされた。

そしてテオドールに浴槽をつくってもらい、ユウゴはそこにお湯を投入。


「こ、これは……凄い。丁度良い温度のお湯です」


野営で風呂に入れるということで、女性陣は大喜び。

男性陣も風呂に入るのは嫌いではなく、湯船を二つ用意し、交互に風呂に入って疲れは癒した。


勿論、男性陣は女性陣の裸を除くような真似はしなかったが……何名か興奮し過ぎて鼻血が出そうになった者はいた。


そして全員がさっぱりして就寝タイムに入り、ユウゴは一度睡眠を取ってから途中でアルに起こされた。


「ユウゴ君、交代の時間だよ」


「……おう、ありがと」


正直なところ……まだぐっすりと寝ていたい。

しかし、そうも言ってられないので、ササっと着替えて水で顔を洗い……前衛のヒルデと組んで見張りを開始。


「はぁ~~……寝みぃな」


「そうだな。もっと寝てたいけど、そうも言ってられないのが悲しい現実だ」


「はっはっは! 全く持ってその通りだ」


今のところ一体もモンスターが襲ってくることはなく、目標とは別の盗賊が襲ってくることもない。


今のところ夜が騒がしくなる出来事は起こらず、睡眠の邪魔はされていない。


「……悪いな、うちのギルがユウゴに対して勝手にイライラしちまって」


「あぁ、別に気にしてないよ。俺が持ってるスキルが珍しいというか特別というか、ズルいのは自覚してるからな」


「そうか……ユウゴは大人だな」


ヒルデはパーティーを纏めるリーダーという立場もあり、他の同世代の冒険者と比べて比較的、メンタルは強い。


なので、ギルやアルの様に少し不機嫌になったりすることはない……が、本音としてはユウゴの強さに少し嫉妬している部分はある。


ただ……そんな感情が吹き飛ぶぐらい、ユウゴに対して敬意を感じた。


「でも、ユウゴは後衛ばかりで良いのか? 個人的な感想だけど、ユウゴは前に出て戦うのが結構得意に思えるんだが」


「えっ、マジ? そりゃ嬉しいな。でも、武器を使った戦闘は……武器を初めて持ったころと比べたら上達したと思うけど、まだまだ一流の人と比べたら差は大きいよ」


「それはそうかもしれないが……まっ、そこはお前が決めるところだな」


本人はあまり昇格試験の細かい部分は気にしている様には思えないので、口うるさくするのは止めた。


「それに、盗賊団との戦いになったら気合入れてやるよ。ウルさんから色々アドバイス貰ったし、そこは頑張らないとな」


「ウルさんか……その点に関しては、本当に羨ましいぜ」


「ふふ、そうだろ……ちょっと腹減ったな」


小腹が空いたユウゴはアイテムボックスの中からグレートウルフの肉を取り出し、適当なサイズに切って串に刺し、焼き始めた。


「ヒルデも食べるだろ」


「へへ、悪いな。ご馳走になるぜ」


「おう……あっ、でもな。折角パーティーを組んでもらってる立場でこういう事言うのはあれだけど、結構色々と面倒事があるんだぜ」


アリステラの街であったことを話すと、ヒルデは必死で爆笑するのを堪えた。


「そ、そんなことが、あったのか……は、ははは。やっぱり、それなりに苦労してんだな……はっはっは」


「笑い過ぎだっての。ウルさんは今まで一定の街に長く留まらず、色んな街を渡り歩いてきたらしいから、これから先もレンみたいな連中に出会わないか……ちょっと不安なんだよ」


怒りの矛先がウルではなく、自分に向くのは確定。

そうなると、対処するのは必然的にユウゴの役目となる。


「いや、本当にウルさんは美人でスタイルも良い……それでいて若いからな。俺らぐらいの歳の男からすれば、マドンナってやつだぜ」


「……だな」


ウルの美しさでは比較的美人、アイドル系の顔を持つ多いこの世界の中でも、容姿レベルは飛び抜けている。


それこそ歳下から同年代、歳上まで魅了してもおかしくない。


「……というかよ、ウルさんは美人なだけじゃなくてカッコ良さまであるだろ」


「確かにこう……刃物みたいな鋭いカッコ良さがあるな」


「だろだろ。となるとさ……そのレイみたいな奴の、女バージョンもいるんじゃねぇか」


「…………駄目だ、容易に想像出来てしまった」


ヒルデの考えを全く否定できる要素がない。


(そりゃそうだよな。ウルさんを尊敬、惚れてる、崇拝してる女性がいてもおかしくない……そんな女性からすれば、俺はウルさんに引っ付く寄生虫と思われても不思議じゃない、か)


せっかくグレートウルフの串焼きを食べているのに、一気に気落ちしたユウゴ。


「ま、まぁユウゴは口喧嘩は強そうだし、絶対に争うってことはないんじゃないか?」


「……話が通じる相手なら良いんだけどな。なんだかんだでお宅のギルも俺が正論をぶつけたら大人しくなったけど、世の中自分の考えこそが絶対!! みたいな奴っているだろ」


「それは否定出来ないな……」


二人の体から沈んだオーラが漏れ出す……だが、直ぐにヒルデが立ち直り、男らしい下世話な話を振り、ユウゴもそれに乗ることで気分が浮上し、もう一度寝るまで退屈せずに済んだ。

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