第53話 有言実行
「グルルルゥ……」
血……よりも食欲をそそる匂いがあれば、当然そこに獣は群がる。
「お前ら、構えろ」
バルトの声と共に、食事に夢中になっていたアルたちも近くに置いる武器を取る……が、刃を抜く前にユウゴが動いた。
「邪魔するなよ」
「グっ!?」
肉料理の匂いに釣られて現れたモンスターはブラウンウルフ。
Dランクのモンスターであり、同じDランクのモンスターであるオークと戦っても、勝率的にはブラウンウルフのやや高い。
そんなブラウンウルフを……ユウゴはサイキックで動きを完全に止めた。
「ヒルデ」
「っ、おうよ!!!」
ブラウンウルフに一番近い位置にいたヒルデに声を掛け、大剣でズバッと頭を斬り裂き、食事中に入ってこようとした邪魔者は成敗された。
「……ユウゴ、こいつはどうする?」
「そうだな……魔石だけ回収しておけば良いんじゃないかな」
「分かった」
魔石だけの回収となれば仕事は早く、ヒルデはエミリアに水を貰って血を洗い、食事の席に戻ってきた。
「ほら、ユウゴ」
「っと……なんでだ? 止めを刺したのはヒルデなんだし、ヒルデが貰っとけば良いだろ」
「いやいや何言ってんだよ。どんなスキルが知らねぇけど、ユウゴが止めてくれなきゃあんなにあっさりと斬れねぇって」
ヒルデの言葉通り、パーティーメンバーのギルとテオドールと一緒に戦っても、あっさりと勝てる相手ではない。
脚力に優れたモンスターであり、中々正確に捉えることは難しい。
「……とんでもないスキルですね」
「ふふ、どう思ってるのかは知らないが、褒めてくれたらそれはそれで嬉しいよ。まっ、このスキルも万能ではないけどな」
どんな相手だろうと、絶対に動きを止められる訳ではない。
テオドールもさすがにそこまで有能なスキルではないだろうと思っているが……それでもブラウンウルフの動きを完全に止めたスキルと、ユウゴの力量を考えると心底恐ろしいと感じた。
(万能ではない……しかし、視界に入っていたブラウンウルフを完全に止めた。ユウゴさんの技量であれば、そこから直ぐに攻撃魔法を放てた筈……後衛職の自分やエミリアさんにとっては、是非とも欲しいスキルですね)
敵の動きを止め、攻撃魔法を放てる。
それが出来れば、よっぽど敵が速く動かない限り、ワンサイドゲームになる可能性が十分にある。
「分かった、とりあえず貰っておくよ」
アイテムボックスの中にぽいっと入れ、食事に戻るユウゴ。
ただ……まさかの状況に、アルたちは当然驚きを隠せず……バルトも表情にこそ出していないが、驚きまくっていた。
(若干……ちょっとはウルのお陰で楽にレベルを上げてたのかと思ってたが、全くそんな事になったな。少なくとも、格上の相手と二人で戦う場合、ユウゴがお荷物になることはない)
対象の動きを止める。
初めて見たスキルということもあり、その効果がどこまで通用するのかは分からない。
しかし、あの一瞬でブラウンウルフの動きを完全に止めた。
それだけでユウゴの評価はグッと上がった。
エミリアもテオドールと同じく、そのスキルが羨ましいな~~と思ってる中、ギルだけはやや不満そうな表情を隠していなかった。
(ふん、男なら武器や魔法を使って戦うもんだろ。良い剣を持ってるくせに、相手の動きを止めるだけ止めて自分で攻撃しないとか……日和ってんじゃねぇよ、クソが!)
ユウゴが持つスキルに嫉妬するのも無理はないが、Dランクモンスター動きを止められる。
そこから攻撃が出来ずとも、それだけで十分有能なスキルなのだが……ギルは嫉妬のあまり、少し常識が頭から抜けてしまっていた。
(働くべき時には働く、か……宣言通り、だね)
アルは、力はあるのに積極的に前に出ようとしないユウゴのスタイルに対し、やる気があるのか……上を目指す気はないのかと、やや不満を持っていた。
しかし実際に目の前で働くべき時に働き、結果を出した。
Dランクモンスターの動きを完全に止めたという事実がどれだけ凄いのか、それはアルも解っている。
決して前衛でも戦えるけど、後衛で自分の力が必要になるまで手を出さない……そのスタイルはやはり好きではないが、きっちり認めなければならないと感じた。
(……アルの奴は、しっかりユウゴのことを認めてるって表情してんな。それに比べてうちの特攻戦士は……頭では納得してそうだけど、感情が邪魔してるってところか)
両者の表情をチラッと見て、ギルがユウゴに対して嫉妬しかしてないのを確認し、ヒルデは小さくため息を吐いた。
昼食を終え、夕食時になるまでは再び盗賊団のアジトがある場所まで歩き続ける。
勿論、道中ではオークやコボルトが襲ってきたが、ユウゴは必要最低限の援護だけをし……その行動にモンスターを倒してもギルのイライラは止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます