第52話 ユウゴの一人勝ち

「おら!!!!」


ギルの魔力を纏った斬撃がファットボアの頭を切断し、襲い掛かってきた二体のファットボアを仕留め終えた。


もう一体のファットボアはヒルデがタンクの役割を果たし、アルが止めを刺した。


「どうだ!!!」


勝利を確信し、実際にファットボアを倒し終えたギルはドヤ顔をしながらユウゴの方に顔を向けた。


「どうって言われても……お見事?」


ファットボアの顔を両断したギルに対し、全く心が籠っていない拍手を送った。


「……チッ!!」


「えぇ~~~……テオドール、どう思うよあの態度」


「全くもってダサいかと」


「テオ、聞こえてんぞ!!! お前はどっちの味方なんだよ!!!」


「事実を言ったまでです」


そろそろ昼時……アルゴンブルグを出発してから、後衛を担当しているユウゴたちの出番は周囲の警戒ぐらいしかなく、警戒している間に他のモンスターが襲ってきたことはない。


つまり、戦闘中に殆どの仕事をしているのはヒルデたちだった。


「ギル、いちいちユウゴに絡むなっての。ユウゴはユウゴで俺たちが他のモンスターに襲われないように見張ってくれてるんだからよ」


「うぐ……くそが」


その仕事が重要であるということには納得出来るが、それでも怒りやその他の感情を完全に抑えきれるほどギルは歳を取っていない。


「アル、手伝うよ」


「あ、あぁ。ありがとう」


ファットボアはゴブリンと違って食料になるモンスターなので、肉だけはきっちり回収してユウゴのアイテムボックスの中に入れておく。


「……ねぇ、ユウゴはその……前に出て戦おうと思わないのかい?」


「ん? どうした、どこか怪我でもしたか?」


「いや、別にそういう訳じゃないんだけどさ」


今回は一緒に盗賊団討伐の依頼を受けているのではなく、昇格試験。

盗賊団との戦闘中の動きなども重要な審査項目だが、道中での動きも審査項目に入っている。


それを考えると、ユウゴは今のところ殆ど評価される動きをしていない。


アルだけではなく、同じパーティーメンバーのハンナもそこは少し心配していた。


「大丈夫だって。働く時は働くからさ」


「そ、そうか」


働く時は働く……アルはそのスタンスがあまり好ましくないと思いながらも、その想いを口に出すことはなかった。


「ま、負けた」


「はぁ~~、プロ顔負けですよ~」


「そうか? そう言ってくれると嬉しいよ」


ところ変わって今は昼食の準備中。

ユウゴはアイテムボックスの中に入っている先程狩ったファットボアの肉を取り出し、他に野菜や香辛料を取り出し、手際良く料理を行っていく。


事前に誰が料理を行うなどは決めていなかったが、ユウゴは誰かに言われるまでもなく、一応そこそこ料理が出来るので、ささっと調理を始めた。


「手慣れてるな~~。俺たちじゃあんなに上手く作れないぜ、なぁテオ」


「そうだな。男三人のパーティーだから仕方ないとは思っていたが……ユウゴさんがこれだけ出来るんだ。諦めるのは時期尚早ということだろ」


「…………」


ヒルデとテオドールは素直にユウゴの料理の腕を褒め、少し離れた場所から無言でユウゴの料理光景を見ているギルも、口には出さなかったが……ユウゴが作る料理がとても美味そうに思えた。


「さっ、食べようぜ」


テオドールの土魔法で簡易的な椅子とテーブルは用意されており、準備万端。


ギルたちの目の前にはユウゴが作った肉料理やサラダが置かれており……全員食らい付くように食事を始めた。


「……そんなに美味いか? 素材は普通だし、別に俺の料理の腕はそこまで高くないんだけどな」


「いや、勘違いしてるぞユウゴ。お前、さらっと香辛料を使ってただろ」


「はい、使いました。普通に焼くだけでも美味しいですけど、香辛料を使った方がもっと美味しいんで」


「そりゃ事実だな。ただ、香辛料はそれなりに値段がするんだよ。普通は冒険者たちが買う物じゃねぇ」


香辛料に金を使うなら、ポーションや予備の武器などの資金に使う。


その考えはユウゴも解るが、チート武器は多く搭載しているユウゴにとっては、現時点で香辛料に金を使う余裕が十分にあった。


「そうかもしれませんけど……ほら、俺はウルさんとパーティーを組んでるんで、そういうのにお金を使う余裕があるんですよ。それに、なんだかんだで美味い食事は戦闘で助けになってくれると思いますよ」


「うっ……ま、まぁその意見は否定出来ないな」


長く冒険者として活動していれば、偶に一定レベル以上の料理の腕を持つ者がおり、その者が作った料理を食べた後の戦闘は……何故だがいつもより動けた気がする。


「……うん、やっぱり美味いぜ。ユウゴはこれから何度もパーティーに勧誘されるだろうな」


「嬉しい事なんでしょうけど、俺はウルさんとパーティーを組んでるんで、全部蹴ることになりますね」


今回の昇格試験が終わった後、とりあえずユウゴをパーティーに誘ってみようと思っていたヒルデとアルはユウゴの言葉に、地味にショックを受けた。


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