第51話 戦闘中でも警戒は大事

「ユウゴなら問題無いと思うけど、気を付けてな」


「はい、行ってきます」


昇格試験日の朝、いつもより早い時間に起きて朝食を食べ終えたユウゴはウルと別れ、集合場所へと向かう。


(……ちょっとだけワクワクしてるな)


昇格試験の内容に関しては、心して望まなければならないと思っている。

だが、同じ冒険者と一緒に行動し、何かを達成する。


あまり気を緩み過ぎるのは良くないと解っているが、ユウゴは若干修学旅行気分になっていた。


そんな気分のまま集合場所に向かうと、既にアルたちが集合場所に到着していた。


「やぁ、おはよう! ユウゴ」


「おはようございます」


「おはよう」


「三人とも、おはよう……ヒルデたちはまだ来てないみたいだな」


当然、集合時間までにはまだ余裕がある。

なので、試験監督であるバルトすら来ていない。


「僕たちがちょっと早く着き過ぎてしまったみたいだね」


「昇格試験なんだから、遅刻するより早過ぎる方がまだ良いでしょ」


ハンナの言葉はもっともだった。

試験監督であるバルトは勿論、そういった面も昇格するのに値するのか、審査項目に入れている。


ランクが上がれば、同業者と合同で依頼を受けることも多くなる。

そういったタイミングで集合時間に遅刻などすれば、当然印象は悪くなる。


その悪い印象は直ぐに広がり、その街で活動し辛くなってしまう。


「それもそうだな。ギルたちはちょっと雑なところがあるけど、集合時間に遅れて着たりすることはないと思うよ」


「ヒルデやテオドールもいるから、そこら辺は意外と大丈夫だろうな」


出会ってまだ数日のユウゴでもギルドが雑な性格というのは、なんとなく解る。


ヒルデにも少々そういった部分が感じ取れなくもないが、兄貴肌な部分がそれを補っている様に思えた。


そしてテオドールは言わずもがな、集合時間などには絶対に遅れない性格をしている。

というのが、ユウゴの個人的な感想。


「おっ! お前らもう着いてたのか、早いな」


ユウゴがアルたちと親交を深めていると、バルトとヒルデたちが一緒に集合場所に現れた。


「ウルさんに、絶対に集合時間前の十五分ぐらい前には着くようにした方が良いって言われたんで」


「僕たちも先輩方に同じような事を言われてたんで」


「そうかそうか、それは良い心がけだ」


がっはっは! と笑いながらバルトは昇格試験を受けるメンバーが全員揃っているか、再度確認を行った。


(当たり前だが、全員集合時間前にいるな……うん、顔つきも悪くない。まっ、盗賊たちとの戦闘が始まったら、どうなるかは分からないけどな)


なるべく自分が手を出さずとも良い状況になってくれると有難い。

そんな事を考えながら、予定していた集合時間よりも少し早めにユウゴたちは盗賊団のアジトを目指し、出発した。


(まっ、当然だけど歩いて行くよな)


別に馬車などに乗って目的地まで行くことを期待していた訳ではない。

ただ、徒歩以外の移動方法があまりない……それが少し残念に思った。


(けど、自電車やバイク、車に乗ってたらいきなり襲ってきたモンスターや盗賊に反応出来ないよな……それを考えれば、街を出てからどこかに移動する場合は徒歩が一番か)


モンスターの中には当たり前のようにバイクや車の最高速度に追い付き、追い越すスピードタイプがいる。


勿論、この世界の戦闘者たちも普通ではないので反応出来る人は反応出来るが、乗り物に乗ってる状態だと少し話は変わってくる。


「……来る」


ハンナの声で現実に引き戻され、一同は周囲に意識を向ける。


「ギギャ!!」


「ギャギャギャ!!!!」


「全部で五体よ!!」


「よっしゃ!!!」


敵の数が分かり、他のモンスターはいないと分かったギルは勢い良く飛び出し、ゴブリンに斬りかかった。


「一人で突っ走んなよ」


我先にと走り出したギルに対して苦笑いしながらヒルデも前に出る。

そしてアルとハンナも前衛として仕事を果たすために刃を抜き、ゴブリンを仕留めに掛かる。


「ユウゴさん、僕たちの援護は必要なさそうですね」


「みたいだな。皆ゴブリンなら倒し慣れてるって感じだ。なら、俺たちがやることは前衛がゴブリン退治に集中している隙を狙おうとしてる奴がいないか、そういった存在の索敵だな」


モンスターの中にも漁夫の利を狙うぐらいの知力を持つ個体は存在する。


ゴブリンの上位種でもそれぐらいの狩り方は思い付く。

戦力的にもユウゴがヒルデたちの援護をする必要は全くないので、両側……もしくは上空、後ろから奇襲を食らわないかを警戒。


(冒険者歴が一番短いくせに、良く解ってるな)


ユウゴの冷静な判断を見て、バルトはユウゴの評価を少しだけ上げた。


「バルトさん、魔石はどうしたらいいっすか」


「どっちでも良いと思うが……ユウゴはどう思う?」


「俺ですか? ……盗賊団を倒せば、溜め込んでいたお宝が手に入るんだから、ゴブリンの魔石ぐらいは放っておいても良いかと」


「なるほど。それもそうだな」


ユウゴの考えに納得し、ヒルデたちはせっせと穴を掘ってゴブリンの死体を埋めた。


今回はユウゴの出番はなかったが、いずれ戦闘で何か手伝うことがあるだろう……そう思っていたが、意外と昼食の時間になるまで周囲を警戒するぐらいしかやることがなかった。


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