第49話 それだけで貴重な戦力

「おう、全員いるみたいだな」


集合の時間となり、試験監督の冒険者が現れた。


「俺はBランクのバルト、よろしくな」


ヒルデと同じく茶髪のショートカットだが、顔は割とイケメンフェイス。

だが、どこから女遊びをしてそうな雰囲気が漏れている。


(強いな……でも、ウルさんと比べてどっちが強いんだ?)


Bランクといえば、パーティーを組んでいるウルと同じ。

しかしBランクの人には一瞬とはいえ鑑定を使うのは失礼だと思い、ステータスは分からない。


ただ、雰囲気から自分よりは絶対に強い。それだけは解る。

それでもバルトがウルとタイマンで勝てる実力があるのか……それもユウゴの実力と経験が足りない為、パっと見だけでは分からない。


「今回は七人か……まっ、大丈夫か。お前らも冒険者になって数年ぐらい経ってるだろうから、何となく分かってるだろうとは思うが、Dランクの昇格試験では盗賊を相手にして貰う」


七人の中に一人だけ冒険者になって一年も経っていない男がいるが、バルトはそれを解っていながらスルーした。


「基本的にお前たちだけで戦ってもらうが、ヤバいと思ったら俺も参戦する」


あんたの助けなんてなくとも、俺たちだけで倒す。

そんな気持ちが表情から零れているのを見て、バルトは満足げな表情を浮かべる。


(今回も受験者は強気な奴らが多いな。俺も若い頃はあんな感じだったな~)


昔を思い出しながらも、仕事中なので直ぐに切り替える。


「そんなに熱くなるな。仮に俺が参戦することになったとしても、それまでの評価で受かる可能性は十分にある」


ギルドが昇格試験用に選んだ盗賊たちは、七人の実力を考えて倒せる可能性がそれなりにある。


だが、一応ギルドが確認できるだけの戦力。

まだ外部に見せてない戦力がある可能性は否定出来ない。


(つっても、こいつがいるな……多分、アクシデントがあっても盗賊団は討伐出来るだろうな)


バルトの手元には、今までギルたちが受けて成功した依頼の数や、買取カウンターに持ち込んだ素材の内容が書かれた書類がある。



(冒険者になって一か月しか経ってないにもかかわらず、Dランクの昇格試験を受けられるだけでも異例だってのに、ソロでCランクのグレートウルフを倒すとか……マジのスーパールーキーだよな)


バルトも昔は自分のことを天才、超天才だと思っていた。

実際その言葉が当てはまらなくもない人生を送ってきている。


Bランクという称号も、冒険者の中から見れば成功者と呼べる位置。


実際に、バルトはそこまで金使いが荒くないので、一般人が一生かかっても稼げないぐらいの金を持っている。


だが、順風満帆に進んでいる冒険者人生だが……冒険者になって一か月でCランクのモンスターをソロで倒した記憶はない。


(Bランクのウルが手を貸してるのかと少し疑ったが、証言してるのがウルだし……マジの天才だろうな)


その才に少し嫉妬しながらも、話を続ける。


「てことで、お前ら少し話し合え。戦い方とかお互いの武器についてな」


バルトに言われてた通り、七人は自分たちの武器や道中で遭遇するモンスターや盗賊と戦う時の為の陣形について話し始めた。


(アルって、このままいくとハーレムパーティーをつくりそうだな)


全員が真剣に話している最中に、ユウゴはふとそんな事を思った。


アルは紅色のサラサラショートヘアーを持ち、性格は元気寄りだが……顔はイケメンフェイス。


ユウゴがパッと見る限り、同じパーティーメンバーであるエミリアとハンナはアルを意識している様に見えた。


(金髪ユルフワヘアーのおっとり可愛い系と、黒髪ロングのクール美人さん……二人ともスタイル良いし、ギルあたりは態度に出さずとも心の中で思いっきり嫉妬してそうだな)


ユウゴの予想は的中していたが、ギルだけではなくアルたちのパーティー構成にはヒルデも少々嫉妬していた。


「ユウゴさん、ユウゴさんはタイミングによって前衛と後衛を交代してもらっても良いですか」


「あぁ、勿論」


攻撃呪文をメインに使って後衛で戦うメンバーはテオドールと、水と光魔法を使うエミリアのみ。


弓を使う者がいないので、必然的に後衛からの攻撃が必要な際には、ユウゴの力が必要になる。


(とはいっても、盗賊戦になったら好きなように暴れたいな……まぁ、なるようになるかな)


ウルの言葉はしっかりと頭に残っている。

盗賊の中に、まっとうな奴などいない。

敵の言葉に惑わされてはいけない……それは分かっている。


胸に刻んだつもりだが、いざ戦う時になれば……敵を攻撃した際に、心が乱れてしまう……そんな予感が消えない。


「あっ、俺一応アイテムボックス持ってるけど、食料とか入れておこうか」


「「「「「「……よろしくお願いします」」」」」」


「お、おう」


この時ばかりはギルも悪態な態度を取ることなく、丁寧に頭を下げて頼み込んだ。


道中の食料に関しては、真面目に死活問題となるので、アイテムボックス持ちはそれだけで貴重な戦力となる。


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