第48話 ある意味面白い奴
(六人……俺と一緒に受ける人は、全員先に着いてたのか)
ユウゴ以外の受験者が全員先に着いていたとはいえ、ユウゴは時間前に到着している。
何も間違ったことはしてない……してないが、そういった話で済まないと考える者がいた。
「おい、お前がユウゴだろ」
「あぁ、そうだけど」
「一番後輩のくせに一番最後に着いて挨拶もなしかよ」
「……」
赤髪若干ボサボサヘアーの男の子からいきなり絡まれ、しかも超上から目線な態度をぶつけられ、ユウゴは怒り心頭……にはならなかった。
(こいつ……凄い面白いな)
目の前の同年代であろう男の子に対して、怒りの感情は湧かず、ある意味面白い奴という感想を持った。
ユウゴが七人の中で一番後輩というのは間違っていない。
だが、冒険者の序列は基本的に実力主義。
この場にいるということは、全員Eランクの冒険者。
つまり、冒険者内の立場としては皆平等なのだ。
「名前をも知らない人に挨拶ってのもな」
一瞬だけ鑑定を使って名前やレベル、持っているスキルなどを視たが、敢えて煽った。
「ちッ! ギルだよ」
「そうか、ギルか。よろしく。これで良いか」
「ッ!! 良い訳ないだろ!!!」
冒険者ということもあり、同年代の男よりは迫力がある。
しかし、日々戦っているモンスターや模擬戦の相手になってくれるウルよりは全く劣る。
(ふ、ふふふ……なるほど、だから面白いのか)
相手を煽り、手のひらで転がす。
その楽しさを今、リアルに体験し……これは面白いと思った。
「なんでだ? 挨拶はしただろ。それとも……自分の方が圧倒的に強いから、弱い奴は強い奴に挨拶しろとでも思ってるのか? 嫌な先輩だな、お前」
「なっ!?」
思いっきりカウンターを食らい、圧されるギル。
普段のギルは横暴な輩ではなく、優等生でもないが……良い意味でテンションが高い。
だが、ユウゴに対してだけは普段、同じルーキーの同僚と接する態度を取れない。
「それとも、俺が冒険者になってから直ぐにDランクの昇格試験受けるから、嫉妬してるのか?」
「ッ!!!!!!」
図星を突かれ、ギルは顔を真っ赤にしながら拳を振り上げた。
(こうなれば、正当防衛だよな)
自分はウルにおんぶ抱っこな存在ではなく、ルーキーとしてはそれなりに強いと証明する良いチャンス。
そう思ったが、ギルの後ろから大柄な男が現れ、そのままギルを止めた。
「ギル、そこまでだ」
「ッ!? ヒルデ!!! なんで止めるんだよ!!!」
「なんでって、そりゃ止めるに決まってるだろ。図星を突かれて拳を上げるとか、普通に恥ずかしいだろ。とりあえず口喧嘩じゃ惨敗なんだし、大人しく引いとけ」
百九十センチを超える巨体に動きを止められ、自力じゃ抜け出せないのは解っているので、ギルは舌打ちをしながら降参の態度を取った。
(茶髪のショートカットにゴリっとしたフェイス……兄貴肌って感じな人だな)
「分かった、分かったよ!!! もうそいつには関わらねぇ」
「そうしてくれ。悪かったな、うちの特攻隊長が変に絡んで」
「大丈夫だ。前にいた街でもウルさん関係で同じルーキーに絡まれたことあるから」
「そうか。有名な人と組んでるとやっぱりそういうことが多いんだな」
雰囲気を変えずに話を続けるヒルデだが、内心ではあのままギルが殴り掛かっていたら、負けていたかもしれないと思った。
(この表情……その絡まれた奴には、絶対勝ったな。俺たちもルーキーにしちゃ結構高い評価を貰ってるんだが……こいつは別格ってところか)
悔しいという思いはあるが、それはそれで仕方ないとヒルデは現実を受け入れた。
「……ユウゴさん。僕はヒルデそこのバカと同じパーティーのテオドールです」
二人に会話に割って入ってきたテオドールは、金髪のサラサラヘアーにメガネをかけ、インテリ感が溢れるイケメン。
ちなみに、バカと言われたギルは言い返そうとしたが、今は少し冷静になり落ち着いていたので、言い返せないと思い……黙って沈黙していた。
「あ、どうも。よろしくお願いします」
「こちらこそ……一つお聞きしたいのですが、ユウゴさんはどういった戦闘スタイルなのですか。僕は火と土の魔法を使って戦います」
「俺はロングソードと、一応槍と双剣を使います。それと、風の魔法も使います」
戦闘技術の一つとして、風魔法を使うと答えた。
この言葉に、テオドールたち以外の三人も表情を驚かせた。
「それは……本当ですか」
「はい、こんな感じで」
「ッ!!! ……なるほど、疑ってすいません」
「いえいえ」
一瞬でウィンドアローの魔法陣を展開し、それだけでテオドールはユウゴの言葉が嘘ではないと分った。
(この人は……魔法剣士、なのか? それより、展開速度が尋常ではなかった……展開の速度なら、完全に僕の負けだ)
当然、一瞬ではあるが実力の差を感じ……テオドールにも悔しいという思いが溢れた。
ただ……その想いは今発散するべきではない事は分かっているので、ひとまずギルが与えてしまったかもしれない自分たちのイメージを払拭しようと、試験監督が来るまでユウゴとコミュニケーションを取り続けた。
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